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第33話 目覚めて
目が覚めると、見知らぬ天井があった。
どこだここは。
頭が痛いし身体も怠い。
ゆっくりと視線を動かす。
窓から入る日の光から日中ということはわかる。
「カミルさん!」
悲鳴にも似た声が響き、誰かが俺に覆いかぶさった。
匂いがする。
よく知っている、落ち着く匂いが。
「……サーシャ……?」
渇いた唇を何とか動かし、俺は覆いかぶさる人物の名を呼ぶ。
「よかった……目が覚めないかと思って」
泣きそうな、黒い髪に褐色の肌のサーシャの顔が視界を覆う。
「ここは……今日は……」
絞り出すような声で言うと、サーシャが言った。
「ここはリュートさんの家です。あれから……がけ崩れから二日たちました」
二日か。思ったより時間が経っていなかった。
「驚きました。目が覚めたらカミルさん、倒れてしまって。魔法を使いすぎたと聞きましたけど。他の医術師の方が驚いてましたよ? 中には死にかけた人もいたはずなのに、全員完治していてって」
それはそうだ。
治癒魔法は自分の命を削り、どんな傷も病気も治すのだから。
俺はサーシャの顔を見る。
けっこう重傷だったはずだが……後遺症はないだろうか。
あんな傷に魔法を使ったのは初めてだから、それが気がかりだった。
俺は、ゆっくりと手を上げてサーシャの頬に触れる。
すると彼は一瞬びくっとした後、その手に自分の手を重ねた。
「どこも……痛みはないですか?」
そう俺が問うと、サーシャは頷き言った。
「はい、大丈夫です。貴方の魔法のお陰ですよね」
その通りではあるがそれを誇るつもりもない俺は、なんて答えていいのか思わず目をそらしてしまう。
「ありがとう。また、助けられた」
涙を含んだ声で言い、サーシャは頬に添えた俺の手をぎゅっと握った。
助けたこと、あったっけ。
あぁ、もしかしたらノエルの骨をサーシャが折って、それを俺が治したことを言っているのか?
あれは俺が助けてもらった方だと思うが。
「俺は……医術師、ですからね」
「そうですね。そうですけど……カミルさんがいたから俺も、他の冒険者も生き残ることができたから」
なんだか感謝されるとむず痒い。
「カミルさん。しばらくここに滞在しますから。無茶はダメですよ」
そんなことわかっている。
動きたくても動けないし。
サーシャは俺から手を離し、
「リュートさんたちに伝えてきます」
と言い、椅子から立ち上がって部屋を出て行った。
その背中を見送り、俺は息をつく。
よかった。
サーシャに何もなくて。
そう思い俺は、さっき彼に触れていた手を見つめる。
彼には、あの治癒魔法のことはばれていない。
このまま隠し通せるだろうか。
できればこの力は俺の代で終わらせたかったのに。
共に過ごす時間が長くなるほど、サーシャに情がわいてきて離れられなくなってくる。
「目が覚めたって?」
扉が開くとともに入ってきたのはリュートだった。
彼はベッドの横に立つと、失礼、と言って俺の額に触れる。
「とりあえず熱はないね。倒れたときはけっこうな熱を出していたんだよ。ハイナーはこんなことなかったと思うけど」
「でしょうね。俺はあの魔法をあまり使っていないから」
しかも十人以上に使うなんて、経験したことがなかった。
「なのにあの数に魔法使ったの? 嫌だって言っていた割にはずいぶんと思い切ったねぇ」
と、面白そうに笑いながら、彼はすっと、俺の頭を撫でた。
なんだか子供扱いされている様で嫌だが、彼からしたら俺は子供か。
彼の半分の生きていないだろうから。
「彼……サーシャの取り乱しようが酷かったよ。アルファの割に落ち着きがないというか……番が死ぬと思ったからかな。でも君たち番じゃないよね」
そう言って、リュートは腕を組み小さく首を傾げた。
そんな事が起きていたのか。
俺も……サーシャが運ばれてきたときは内心かき乱されていたが。
「番じゃないですよ」
「そうだよねぇ。興味深いなぁ、君たちは。オメガバースはまだわからないことだらけだからねぇ。普段は彼、冷静だし君への執着心を垣間見せもしないのに」
アルファらしくない。と言いたいんだろうな。
俺もそう思う。
だからわからなかった。
普段は感情を抑えているんだろう。理性の皮を被って。そうやって心を守っているのかもしれない。
戦場の爪痕を隠すために。
「宿から君らの荷物が運んであるから、しばらくここで養生しなよ。ちょっと騒がしい日があるかもだけど気にしないで」
そう言って、リュートは意味深に笑った。
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