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第37話 リデューヘ

 それから三日後。  俺たちは旧リデューへと旅立つことにした。 「もっといてくれても大丈夫なのに」  別れの挨拶でリュートが意味深に笑い、馬車に荷物を積む俺たちを見つめる。 「おふたりだってすることがるのでしょう」  そうアベルがフォローに入る。  発情期を過ぎたせいか、彼からは余り匂いがしなかった。  彼も俺がオメガであると気が付いているのかもしれないが、結局互いにその事には触れなかった。 「あぁ、そうだねぇ」  笑いながらリュートが腕を組む。  やはりこのエルフは苦手だ。  何かを見透かしたような、どこか上から物を見ているような態度が俺には受け入れられなかった。  サーシャは気にする様子もなく、リュートに深く頭を下げる。 「お世話になりました。すみません、たくさん報酬をいただいて……」 「いやぁ、いいんだよ。君のお陰で奈落でいろいろと見つけられたし。がけ崩れでは助けてもらったからね」  そしてリュートは俺の方を見る。 「それに、カミルのお陰でたくさんの命が救われた。皆に変わって礼を言うよ。ありがとう」  想いもよらないタイミングで言われ、俺は戸惑い思わず視線を外してしまう。 「死にかけた冒険者の仲間は皆、君に感謝していたよ。礼にってお金をおいていった者もいたからね。それも合わせたら結構な金額になったんだ」  医術師であるし、人を救って礼を言われる経験はたくさんあった。  なのに今までとはなんだか意味合いが違うような気がした。  命を削って、命を長らえさせた。  だからなんだか不思議な気持ちになっているのかもしれない。  魔法を使ったのは正しかったんだろうか……  そう思て俺は思わずサーシャを見る。  彼は今、笑顔でアベルと話をしている。  俺が魔法を使ったからサーシャは今もここにいる。  わかっているじゃないか、カミル。  怪我をした彼を見たとき、俺は何を思った?  死んだら嫌だと、強く思ったじゃないか。  それが答えだ。  もし今後、死にかけた人をみたらきっと俺はその命を救うだろう。  もし、サーシャがこの魔法の秘密を知ったら、彼は俺を止めるだろうか?  サーシャがこちらに気づいて小さく手を振る。  その足元では、クロハが蝶と遊んでいた。  あの笑顔を見ると心が揺らぐ。  もう俺は後戻りできないところまできているんだろうな。  俺はサーシャに惹かれている。これは本能のせいなのか別の理由なのかわからないが。  このまま一緒にいたらきっと、もっと深い想いを抱くだろう。  覚悟を、決めないとな。  旅の準備が済み、クロハが馬の上に乗る。 「それではお世話になりました」  言いながらサーシャが頭を下げるので、俺も倣って頭を下げる。 「サーシャさん、カミルさん、よい旅を!」  そう爽やかな笑みを浮かべてアベルが言い、リュートが含みのある笑みを浮かべてこちらを見ている。  そんな彼らに背を向けて、俺は馬車の荷台に乗り込んだ。  サーシャが御者台に乗り、馬が動き出す。  俺は振り返らず、ただじっと正面を見つめた。  晴れた空に大きな鳥が横切っていく。  リデューまで一カ月くらいかかるかもしれないと、サーシャが言っていた。遠いな。  サーシャの生まれた場所。いったいどんなところなんだろうか。  俺の故郷を出たのは六月ごろだったはずだ。  時が過ぎ、今は八月を迎えている。  俺がいた町は今頃なら暑い日が続いているはずだが、リデューがある一帯は大陸の北側にある。しかも山が連なっていて標高も高い。  その為、八月になっても気温がさほど上がらず過ごしやすい気候だった。

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