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第39話 ふたりの生活
俺とサーシャ。
ふたりの生活が始まった。
俺は役所に相談をし、町の診療所で働けることになった。
サーシャも近所の人のつてで、鉱山の仕事をすることになったらしい。
「ここは、珍しい鉱石が採れる地域なんですよ」
そう、サーシャが教えてくれた。
「質のいい武器の材料になって。それが理由で皇国に攻められてしまったんですけどね」
と言い、彼は苦笑を浮かべる。
昔から現在まで、鉱山で働く町の人は多いらしい。
鍛冶屋もたくさんあって、町では朝早くから鎚の音が響いていた。
この町に来て三日後。
俺は診療所での仕事が始まる前に、オメガバースや月狼について調べるため、一度王都へと赴いた。正確には旧リデューの王都にだ。
もちろんサーシャも一緒だ。
「勉強、熱心ですよねぇ」
と、サーシャが感心したように言う。
「国によって研究の進み方が違いますからね。ここと俺がいた国では、二ヶ月近く離れていますし」
「それもそうですねぇ。そういう研究って国同士で共有しないんですかね?」
サーシャが首を傾げて言った。
「近隣の国と共有することはありますよ。大きな国から資料を取り寄せることもありますし。ただ内容にもよります」
「そうなんですか」
感染症の話は逐一情報が入って来るが、オメガやアルファの話はさほど重要視されていないからか、別の理由かわからないが全然他国の情報が入ってこなかった。
そもそも数が少ないから仕方ないのかもしれないが。
図書館でオメガバースの情報を調べたが、目新しい物はなかった。
オメガが昔からアルファによって誘拐されていた話などがあり、どこの国も同じなのかと嫌悪感を抱く。
「アルファはよく運命を口にする。ただ唯一。魂が共鳴し合う番となるオメガがいて、アルファの多くはその『運命の相手』を捜しているという」
そんな記述を見つけ、俺はノートにそれを書き写した。
この話は以前も聞いたな、この話。俺が世話になった教授が『運命の相手』がどうのとか言っていたっけ。
そう思いだし、俺はノートを読み返した。
ノートの最初の方に、運命の相手、という言葉はあったが詳しい記述はなかった。
そうだ、詳しくはわかっていないと、教授が言っていた。
運命の相手なら互いに分かりそうだが……ノエルはなぜ俺に運命とか言ってきたのか謎すぎるな。
「オメガの妊娠の確率は一般の女性よりも高い傾向にある。性行為から二ヶ月ほど経つと、つわりなどの症状が出始め、三ヶ月後、あるはずの発情期がこないことで妊娠に気がつく場合が多いようである」
そんな記述を見つけ、俺の中で血の気が引く音がした。
指先が震え、字が歪んで見えてくる。
そうだ……
俺は発情期にサーシャと何度も……
その事実を思い出し、目の前が暗くなる。
オメガは妊娠する可能性がある。
その事がすっかり抜け落ちていた。
俺は、思わず自分の腹に手を触れる。
宿って……いないだろうか。
俺にはまだ、そんな覚悟はない。
「カミルさん……?」
俺の前で、月狼の本を読んでいるサーシャが心配そうな声を出す。
ハッとして俺はサーシャを見、口を開けかける。
ここは図書館だ。
辺りにはたくさんの人がいる。こんな所で妊娠がどうのなんて話したくはない。
だからといって、サーシャに伝えないわけにもいかない。
俺は引きつった笑みを浮かべ、
「後で話します」
とだけ答えた。
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