14 / 27

第14話

 華やかだった叙任式が終わり、基地の中には静かな興奮が満ちていた。兵舎のほうからは楽しそうな笑い声と歌声のようなものが聞こえる。    リュカはそんな声を聞きながら、軍の門を出てひとり森の中の自分の家へと向かった。   辿り着いた一人きりになった住まいには明かりも灯らず、扉を開けるとしんとした空気がリュカを迎える。  ジークの気配が消えた家は信じられないほどに冷え冷えとしていた。家のつくりやテーブルや椅子などの家具もそのままだからこそ、決定的に足りないものがはっきりと浮き彫りになってしまう。  茫然と家の中に入り、ランプに火を灯し、自分の椅子に腰かける。ぼんやりと揺れる火を見ていると、昼間の光景がよみがえってくる。  立派な騎竜になったジーク。そしてジークの番となった、美しいレイラ。  もしかしたら今頃、ジークはレイラと一緒にいるのかもしれない。今この瞬間、二人は抱き合っているのかもしれない。  そう思った瞬間、鋭いナイフで切り裂かれたような激痛が胸に走る。  あの優しく触れてくれる大きな手も、愛情を余すことなく伝えてくれる赤い瞳も、甘く囁く低い声も、自分ではない誰かのものになるだなんて耐えられない。真っ黒な嫉妬の感情と耐え切れないほどの孤独が押し寄せてくる。  ――俺は……なんのために生きているのだろう……。  双子の兄の死のショックで竜騎士として飛ぶことも出来ず、名ばかりの少尉で軍のお荷物で、そのうえ嫉妬に狂って愛する人の幸せも願えないような醜悪な人間で。そんな自分に、生きている価値などあるのだろうか。 「……ゼノ……」  リュカはぐっと目を瞑り、双子の兄の名前を呟いた。  まるで命綱を握るように何度もその名前を呟いていると、だんだんと生前のゼノの姿が瞼の裏に浮かべ上がってくる。  自分とは瓜二つだけど全く似ていない、天使のように美しいゼノの姿。  会いたい。『俺はどうしたらいい?』とゼノに泣きながら縋り付きたい。  でもゼノはこの世にいない。永遠に会うことは出来ない。 「ゼノ……そっちに行ったら駄目か……?」  思わずリュカはそう口にしてた。  ゼノが死んで、それでもゼノの死を無駄にしないように、ゼノの意思を受け継がなくてはならないと、自分なりに懸命に生きてきた。  だけどのその結果、何かを掴むことが出来ただろうか? 何もない、全部この手をすり抜けていく。ジークという愛おしい人ももう手の届かないところに行ってしまった。  もうどうやって生きていけばよいのかわからない――。  途方にくれながらテーブルの上のオイルランプの光を見つめて、どれくらい時が経った頃だろう。  トントン、という扉が叩かれる音にリュカははっとと身体を揺らした。  空耳かと思ったが、しばらくするとまたトントン、と音がする。まさかと思いながらも、気が付くとリュカは扉の向こうに向かって声を出していた。 「――ジークか……?」  まさかという気持ちで立ち上がる。またトントン、と扉を叩く音が聞こえた。リュカは扉まで走り、震える手で鍵を上げた。 「……ジーク……」  目の前にいたのはジークだった。軍支給の外套を羽織り、固い顔で立ち尽くしている。  信じられなかった。  目の前にジークがいる。あれほど会いたいと願ってきた相手が、手の届くところにいるだなんて。 「ジーク――なぜここにいるんだ……? 番は……レイラは……?」  リュカが震える唇でそう呟いた瞬間、ジークはリュカの身体を掻き抱いた。リュカを押し込むようにして一緒に家の中に入ると、ジークは腕の力を強めた。背中をへし折らんほどの力で抱きしめてくる。 「リュカ……俺はどうしても、リュカ以外を抱けない。リュカ以外を愛せない……っ」  激しく求められるように抱きしめられ、リュカの頭の中からは、ジークに番がいることも、自分たちが許されない間柄であることも、すべてのことが消えてしまった。  ただ自分のところに戻ってきてくれたジークが愛しくてたまらない。  ――ジークから離れたくない……。  自分が生きていくにはジークがどうしても必要だ。側にいて抱きしめてくれて、体温を分けてくれて、そして名前を呼んでくれるジークが……。  ぽろっと涙が落ち、身体が震えてしまう。それに気が付いたジークが腕の力を弛め、リュカの顔を覗き込んでくる。 「リュカ……泣かないで……ずっと俺が側にいる……リュカを愛してるんだ」  真っ赤な瞳は不安定にゆらゆらと揺れている。リュカに対する愛情が、溢れんばかりに詰まっているようだった。 「ジーク……」  ジークの瞳に中に吸い込まれそうな感覚に陥り、はっと我に返った。    ジークは竜人だ。人間のリュカとは結ばれない。それにジークはレイラと番うことが決まっている。だからジークの愛を受け取ってはいけない。  リュカはジークの胸を手のひらで押した。 「駄目だ……俺はお前のことを愛していない」  ひゅっとジークが息を呑みこんだ音が聞こえた。   「お前にはレイラがいるだろう。……今日会ったよ。綺麗な人じゃないか。ずっとジークのことを慕ってたって聞いたぞ。そんな人がいるのに、一時に気の迷いでそんなことを言っては駄目だ」 「リュカ……それは本気で言ってるのか……?」  呆然とジークが呟く。リュカは自分の中で生まれそうになった迷いを断ち切るように強く頷いた。 「ああ、そうだ」  そしてジークから腕から逃れ、後ろを向く。 「俺はお前に、特別な感情は持っていないんだ。だから悪いことは言わない。レイラのところへ帰れ」  リュカの声は静かな部屋の中に響いた。しばらくジークは沈黙していたが、やがてぽつりと言う。 「わかった……リュカがそう言うのなら……」 「……わかったならもう帰って――」  リュカの言葉は途中で途切れた。  ジークが後ろから、リュカの身体をきつく抱きしめてきたのだ。急なことに硬直して動けないリュカの耳元で、ジークは低く囁く。 「わかったよ、リュカ。そうやって逃げるなら、俺ももう手加減はしない。絶対に逃さない」 「ジーク……? っ、何を」  不穏な空気を感じてジークの腕から逃れようと身を捩ったが、ジークの拘束は緩まない。  そのまま引きずられるようにしてリュカの部屋の中へと連れ込まれ、リュカの身体はベッドの上に押し倒された。  驚いている間にジークが圧し掛かってくる。渾身の力で暴れるも、ジークの力に適うはずがない。 「何をする気だ……っ離せっ」 「離さない」  ジークは片手で軽々とリュカの両腕を掴んで頭上に抑え込むと、じっとリュカの顔を覗き込んでくる。   「リュカがちゃんと言うまで離さない。ほんとの気持ちを言って」 「――……っ」  まるでリュカの中に渦巻いている感情を暴こうとするような強い視線に、身体が震えた。  怖い。これ以上心を揺さぶられたら、必死に押しとどめているものが決壊してしまう。 「ジーク……お願いだ、もうやめてくれ……」 「やめないよ。リュカは俺のこと、好きだろう……?」 「……俺は好きなんかじゃ、ない……」 「嘘だ。それならどうしてそんなに泣いているんだ? どうしてそんな顔をしている?」  言われて気が付いた。  リュカの目からはいつのまにか涙が流れていた。  目を細めたジークが、リュカの震える唇にそっと優しく口づけが落とす。 「リュカ、好きだ。……愛しているんだ」  まっすぐに目を見つめられながら告げられ、必死にせき止めていたものが溢れ出す。  ――もう、駄目だ……。    リュカの唇はいつのまにか理性のコントロールから離れて、勝手に動いていた。 「俺も……ジークが……好きだ」  ジークが大きく目を見開いた。切なげだった赤い瞳の中で、歓喜の光が弾ける。 「ああ……やっと言ってくれた……愛しいリュカ……」  優しくそっと唇が重なった。その温もりと優しさが堪らなくなり、リュカは両手をジークの首に絡め引き寄せた。  それに応えるようにぐっと口づけが重くなり、開いた唇の隙間からジークの舌がこじ開けるようにして入り込んでくる。大きな温かい舌に小さな舌をからめとられ、頭の後ろがかっと熱くなった。 「ん……っ、ん……」  鼻から甘えたような息が漏れてしまう。ジークはリュカの頭を抱えるようにしながらも顔を傾け、舌先を奥へとねじ込んでくる。リュカの咥内を余すことなく舐め、舌先を吸い上げ、時には甘噛みされると、深い愛撫の気持ち良さに次第に頭に霞みが掛かってきてしまう。  深い口づけを解かれたときには、すっかり息が上がってしまっていた。 「リュカ、好きだよ」 「ん……、ジーク……」  ジークはリュカの首筋や鎖骨にキスを落としながら、リュカの衣服をはぎとっていく。現れた肌を大きな掌で撫でられ、リュカはびくびくと身体を震わせた。  ジークに心も体も強く求められていると思うと嬉しくて堪らない。  もっともっと求められたいと心が叫ぶ。  ジークはリュカの上に膝立ちになったまま、荒いしぐさで軍服を脱ぎ捨てていった。そうして現れたジークの裸体に――彼の下半身にリュカはくぎ付けになった。    ジークの性器はリュカの一回り以上は大きく太く、先端は赤く腫れ先走りでたっぷりと濡れていた。そこから繋がる茎には何本もの筋が走り、見事な腹筋につきそうなほどに反り返って立ち上がっている。  逞しく発達した太ももに引き締まった腰、広い肩に太い首――そして情欲を滾らせてリュカを見つめる赤い瞳。 「あ……」  腰がずくんと疼いた。欲情した美しい男の姿に、煽られるようにじんわりと身体中が火照ってくる。    欲しい。この目の前の男が。  同時にリュカの胸には、焦げ付くような思いがこみ上げてくる。  誰にも渡したくない。  レイラにも誰にも、絶対に渡さない――。   「ジーク……来てくれ……」  リュカは見せつけるようにゆっくりと両足を広げた。  「リュカ……」  ジークが視線をリュカの下半身に滑らせ、目を見開く。  薄い茂みの中で、リュカの性器が震えながらゆっくりと勃ち上がっていく。 薄い腹につくほどに反り返り、先端の穴から流れ出て粘液が、ゆっくりと茎を伝っていった。ごくんとジークの喉元から大きな音が響く。 「リュカ……リュカ……無理だよ……そんなことされたら……!」  ジークがリュカの腰を両手でつかんだ。逞しく立ち上がった性器をリュカのものにぐっと押し付ける。  一回りほど大きく腫れあがったものに押し負け、リュカの性器は横に弾かれて反動で大きく揺れる。 「あっ……!」   堪らない刺激に、リュカは高い声であげた。ジークは何度も嵩高の先端をリュカのものに擦り付けてくる。そのたびにリュカの性器は押され弾かれ、ねちねちと水音をあげながら根元から振り回される。 「あぁ……ジークっ、だめだ、そんないきなり……」  リュカの腰から離れたジークの両手が、二つの性器をまとめて掴んで荒々しく扱き上げる。  堪らない刺激にリュカは身体をのけぞらせた。腰元をジークに押し付けるような形になってしまい、さらなる刺激が跳ね返ってくる。 「リュカ……好きだ……リュカ……っ」 「……ジーク……」  大きな両手の合わさりが輪を作り、そこから二つの赤い先端が忙しなく出入りする。ぬるついた先端に蓋をするように触れられるともう駄目だった。 「……あ……っ」  リュカは身体をのけ反らせながら白濁を放った。ほぼ同時にジークも低い呻きをあげながら達する。  温かい粘液が合わさり、リュカはその感触に涙を流しながら目を閉じた。

ともだちにシェアしよう!