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第15話

 眩しい光と鳥の囀りの音に目が覚めると、リュカは自室のベッドに横たわっていた。なぜか何も洋服を着ていない。    ――あれ、俺は……? 横を見てぎくりとした。すぐ隣には裸のジークが横たわっている。途端に昨日の夜のことが脳裏に蘇った。  昨日の叙任式の後、ジークはリュカのところにやってきた。そして情熱的に求められ、リュカは流されるようにしてジークと身体を重ねてしまったのだ。  自分の失態に呻きも出なかった。前にジークの告白を受けたとき、リュカは絶対に気持ちを受け取ってはいけないと思っていた。それなのに気持ちを抑えられなかった。 「ん……リュカ……?」  ジークが声を上げた。瞼が持ち上がり、赤い宝石のような綺麗な眸が現れる。焦点を結んだ目は、リュカの顔を捉えるとぱっと輝いた。 「リュカ、おはよう」  素早い身のこなしでジークはリュカの唇に軽いキスを落とした。そして軽々とリュカの身体を自分の上に乗せて、ぎゅうと抱きしめてくる。素肌同士が触れ、リュカは慌てた。 「ジーク……っ」  もう一度唇にキスをされそうになって、リュカは慌ててジークの唇を手のひらで覆った。ジークがぐっと眉を寄せる。 「何? キスしたいんだけど」 「駄目だ……。やめてくれ、ジーク……」  腕から抜け出そうとしたが、身体を反転させられ反対に伸し掛かられてしまった。鋭い目つきになったジークが、リュカの目を覗き込んでくる。 「なんで辞めなきゃいけないの? 昨日は受け入れてくれたのに?」 「昨日のことは間違いだったんだよ」 「間違い?」  すっとジークの表情が抜ける。リュカはそれに怯みながらも言葉を続けた。 「そ、そうだ。俺とお前はそういう関係になれない。だからもう、ああいうことをしては駄目なんだ」 「なんで?」 「お前には番がいるだろう」 「まだ正式な番になってないよ」  ジークの声が低まった。 「俺が愛しているのはリュカだけだ。レイラには事情を話して番関係を解消してもらう」 「そんな……駄目だ!」 「どうして」 「お前は竜人の番を持って子供を作らないと……。それに人間と竜人が情を交わすのは、重大な軍律違反なんだよ!」 「そんなの知っているよ。でもどうでもいいじゃないか」 「どうでもいいわけがない! ジークと俺のことが周囲に知られたら……」  二人ともただでは済まない。  ジークはもともとノルディアの竜人ではないし、いまだに司令部の監視対象でもある。逆らえばどんな対応を受けるのか想像もつかなかった。さすがに命を奪われるということはないだろうが、意志を奪われ、戦いの道具にされることもありうる。  ――俺はなんてことを……。  いまさらながら自分のしたことが恐ろしかった。  リュカの方が踏みとどまらなくてはならなかったのに、弱さゆえにジークに縋ってしまった。取り返しのつかないことをしてしまったのだ。  それにこのことが父親に知られたら、今度こそ完全にリュカを見限るだろう。出来損ないのくせにライネル家の汚点となったリュカは、きっともう二度と父親の視界に入れてもらえない。きっとブランやミハイルだって、軽蔑の目を向けてくる。   「だから……駄目なんだよ……。俺たちは一緒に居ちゃいけないんだ……」 「秘密にすればいい」  ジークは低い声で言った。 「秘密に……?」 「そうだ。俺は絶対に竜人の番なんて作らない。だって欲しいのはリュカだけだ」 「だけどそれは……、……んっ」  顎を掴まれ、唇をふさがれた。強引にジークの舌が押し込んでくる。手首をシーツに押し付けられてしまうと抗う術がない。 リュカはじっくりと口内を舐めまわされ、唇を解放されたときにはくったりと力が抜けてしまっていた。 「好きだ、リュカ」  まっすぐな瞳でジークが告げる。リュカは濡れた唇を震わせた。  なんの躊躇もなく愛を捧げられ、不意打ちのように心臓の鼓動が速まってしまう。身体が火照る。 「だ、駄目だ、ジーク……」 「駄目じゃないだろ」  ジークが首筋を舐めながら、大きな手のひらをリュカの足の間に伸ばした。 「ほら、ここもこうなってる……。俺に反応してくれているんだろ?」 「違う……っ」 「違わないよ。リュカの、こんなに濡れてる……」  長い指に性器を捏ねられると、くちゅっと水音が立った。リュカは頬を熱くしながらぎゅっと目をつむった。  流されては駄目だと思うのに、身体は心を裏切ってジークの指に反応してしまう。  ――でも、どうして駄目なんだ?  頭の中でもう一人の自分の声がする。  ――生まれてから今まで、懸命に使命だけを考えて生きてきただろう? 少しくらいご褒美を受け取っていいじゃないか?  だって今この瞬間だけなのだ。ジークは「リュカさえいればいい」と言ってくれるが、軍人であり騎竜である彼は司令部の命令には逆らえない。ジークは番を作って離れていき、また自分は一人になる……。  嫌だと思った。一人になりたくない。ジークが離れていくなんて絶対に嫌だ。  リュカは込みあげる衝動のままにジークの首に腕を回した。ジークが目を見開き、リュカの唇を塞ぐ。  キスが激しくなると同時に、リュカの性器を扱く手のスピードも上がっていく。頭の中に響く口づけの音と下半身から聞こえる粘ついた水音に、リュカは唇をふさがれながらも激しく喘いだ。  今まで性欲なんて感じたことがなかったのに、ジークに触られると信じられないほどの情欲が心から溢れてくる。気持ちがいい、もっと。それしか考えられなくなる。 「ん……ん……んんっ!」  身体を大きく震わせて、リュカはジークの手のひらの中に射精した。はあはあと息を荒くしていると、身体をうつ伏せにされた。  上半身をベッドに沿わせ尻を高く上げた格好にされ、後ろからジークが覆いかぶさってくる。 「あっ……」  太ももの間に、熱い猛りが押し付けられる。 「リュカ……足、ぎゅっと閉じて……?」  発情した声を耳朶に吹き込まれると、一度精を放った下半身にまた熱が戻ってくる。言われたとおりに太ももに力を入れると、その隙間に濡れた熱い昂ぶりが差し込まれ、リュカは口を開けて喘いだ。  熱いジークの性器が擦れ、リュカのものも否応なしに勃ちあがっていく。 「あっ、あ……っ、あ」  ぱんぱんと肌同士がぶつかり合う淫らな音と、二人分の呼吸音だけが響く。快感が積み上がっていってしまう。 「リュカ……リュカ……」 「ジークっ、ああ、もう……!」  ふっと浮き上がるような快感が身体を包み、リュカは息を詰めながら射精した。 「……く……」  すこし遅れて、ジークがリュカの背中に熱い白濁を吐き出した。腰を支えていた手が離され、リュカはベッドへと崩れ落ちる。  ジークが荒い息を吐きながらリュカの顎を掬い、身を乗り出すようにして唇にキスを落とした。   「リュカ……気持ち良かった?」  射精のだるさの中で茫然とこくんと頷くと、ジークは嬉しそうに「俺も」と笑った。リュカの頬に何度もキスを落としながら素早く後処理をし、ベッドから立ち上がる。 「名残惜しいけど、俺そろそろ行かなくちゃ。無断外泊になっちゃう前に兵舎に帰るよ。今夜ははきちんと外泊の申請出してくるからね」  最後にリュカの唇にちゅっとキスを落として、ジークは上機嫌で家を出て行った。  そしてジークは言葉の通り、その日の夜もやって来た。その次の日も、またその次の日も。今までと同じように一緒に夕食をとり、一緒のベッドに入る。キスをされて服を脱がされても、段々とリュカはもうジークを拒むことはなくなっていった。  リュカは何もかにも忘れたふりをして、今だけの幸せを感じることを選んだのだ。

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