19 / 27
第19話
ノースフェルト基地からボードー基地までは約五百キロで、その中間地点には第一拠点地と第二拠点地が作られている。
ジークたち騎竜隊は一日目には第二拠点地まで移動し、二日目には第一拠点地まで移動、そして三日目にはボードー基地へと到着するという計画だった。
レグラント軍側は、ノルディアの厳しい冬を迎える前にボードー基地を陥落させたいという狙いがあるのだろう。逆に言えば、ノルディアは本格的な冬になるまでの期間を持ちこたえることが出来るかどうかが分かれ目となる。
独立軍の抱える騎竜は現在十四人。そのうちボードー基地には八人の騎竜が配備されている。今回は四人の騎竜が応援に向かったので、奇襲をかけるレグラント軍をすぐに撃退出来るだろう、というのが大方の予想だった。
だがリュカは自分が戦ってきた感触として、レグラント帝国軍がようやく訪れた絶好の機会を逃すとはどうしても思えなかった。きっと近々何かを仕掛けてくるはずだ。
そしてその悪い予感は当たってしまった。
ジークたちがノースフェルト基地を出発してから四日後の午後、伝令の竜騎士から『ボードー基地が陥落した。騎竜隊が撤退する』という激震の知らせがノースフェルト基地にもたらされたのだ。
◇
基地の離着陸場の上空に騎竜たちが現れたのは、伝令の騎竜が帰還してからすぐのことだった。
どおん、と地響きを立てながら騎竜が次々と着陸し、あたりは砂ぼこりに包まれる。押し寄せる兵士たちが作る人垣の一番後方で、リュカは必死に目を凝らした。
――ジーク……、ジークは……?
滑り込むように離着陸上に舞い降りてきたジークの姿は見えた。だがどの程度怪我を負っているのかはわからなかった。
やがて舞い上がった砂ぼこりが落ち着き、騎竜たちの姿が見えてくる。
その場にいた者たちは息を呑んだ。
騎竜たちはみな血だらけで、身体のいたるところに傷を負っていた。特にやけどの痕が酷い。乗っている竜騎士たちも血まみれで、中には気絶して動かない者もいる。
「……これで全部か……?」
群衆の中から絶望的な呻きが漏れた。
作戦にあたっていた独立軍の騎竜は全部で十二ほどいるはずだ。しかし帰還してきたのは四組のみ。重い沈黙が圧し掛かる中、騎竜たちが力尽きたように次々と人間の姿に戻って行く。
リュカはいてもたってもいられず、人をかき分け、ジークのもとへと走った。父親と『もうジークとは会わない』と約束したことが頭に過ったが、そんなことを気にしている余裕はどこにもなかった。
「ジーク……!」
ジークはしゅうしゅうと湯気を上げて、竜の姿から人間の姿へと変化しているところだった。そばにはジークに乗っていたと思われる竜騎士が茫然と座り込んでいる。
やがて人間の姿に戻ったジークは、がくりと地面に倒れ込んだ。
「ジークっ!」
リュカは慌ててジークの身体を支え、怪我の状態を検めた。手や足にはいくつもの裂傷ややけどのあとが見られ、かなり体力を消耗しているようだったが、頭や胴体に大きな傷はない。命に係わるような怪我はないようだ――とほっと息を吐いたとき、ぐったりと目を瞑っていたジークが「リュ、カ……」と薄眼を開けた。
「カイルが……やられた……」
「え……?」
カイルはジークの親友の優秀な騎竜だ。ジークとともに基地を飛び立っていったはずだが、慌てて見回した発着場にカイルの姿はない。茫然としていると、ジークが震える声で続けた。
「助けようとしたが……敵に囲まれてダメだった……赤竜……赤竜が……来たんだ」
「赤竜?」
どういうことか聞こうと口を開いた瞬間、駆けつけてきた衛生兵たちがリュカを突き飛ばした。
「処置の邪魔だ! そこをどけ!」
数人の医療班の人間がジークを取り囲み、医療箱を広げながら身体の怪我の様子を確認し始めた。そして担架で慌ただしくジークを運んでいく。
リュカはただ茫然とその様子を見ていた。
『赤竜が来た』とはどういうことだろう。
一体何が起こっているのだ――?
ともだちにシェアしよう!

