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第23話
リュカは気が付くと真っ暗闇の中に座り込んでいた。音も匂いもしない、静かな闇だった。
ここはどこだろうか。
リュカはぼんやりとしながらも立ち上がり、周囲を見回した。
そこは見渡す限りの黒い世界で、横を見ても上を見上げてみても黒一色。腕を伸ばしてみても何もない。ただ闇が広がっている。
もしかして、ここは夢の中なのだろうか。
そう思ってしまえばそうとしか考えられない。だって自分が直前まで何をしていたのか思い出せないなんてかなり異常だ。そしてこのおかしな風景に説明がつく。
ぼんやりと立ち竦んでいると、ふいに後ろから肩をトントンと叩かれた。
「ひっ」
リュカは驚きに振り返り、驚愕した。なんとそこにいたのは、金色の髪の毛と蜂蜜色の瞳を持つ自分そっくりの青年。
「ゼノ⁉」
信じられなかった。そこには死んだはずの双子の兄が立っていたのだ。リュカはしばらくの間呆けていたが、やがて涙を浮かべながらゼノに飛びついた。
「ゼノ……会いたかった……」
ゼノの身体は温かく、でもリュカよりも一回り小さかった。だがしっかりとリュカの身体を受け止めてくれる。
ゼノがいる。ここにいる……。
リュカの瞳からは、涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
「ゼノ……! ごめん……ずっと謝りたかった。俺のせいでごめんな……」
ゼノはすこしだけ悲しそうに微笑んだが、きっぱりと首を振った。そしてぱくぱくとしきりに口を動かす。だが声は聞こえてこない。
どうやらゼノは話が出来ないらしい……とようやくリュカは気が付いた。だがそんなことはどうでもよかった。もう会えないと思っていたゼノにもう一度会えたのだ。
しかしゼノがここにいるということは……。
「なあゼノ、俺は死んだのか?」
ゼノは微笑んで首を振った。
「違う? 俺は死んでないのか?」
今度はゼノはこくこくと頷いた。
「それならここはどこなんだ?」
ゼノは困ったような顔で首を傾げた。わからない、ということらしい。
「そうか……それならしょうがないよな」
ここがどこだかはわからないが、隣にゼノがいてくれるならそれで満足だと思えた。もしここが死者の国であっても、ゼノの隣ほどに心が休まる場所はないのだから構わない。
だがゼノは忙しなくトントンとリュカの肩を叩いてくる。
「どうしたんだ、ゼノ?」
ゼノはしきりにパクパクと口を動かし、斜め上を指さす。リュカはその方向を見てみたが、特に何があるわけでもなく真っ暗な闇が広がっているだけだ。リュカはゼノの意図がわからず、首を傾げる。
「ごめん、ゼノの言っていることがわからないんだ。悪いんだけど少し休ませてくれないか?……なんだか眠いし……すごく疲れて……」
言葉にすると、どんどん身体が重くなっていく。リュカはよろよろと座り込んだ。
だがゼノはリュカの腕を引っ張り、必死に立たせようとしてくる。
「何? どうしたんだ?」
ゼノはまたしきりに斜め上を指さし、ぱくぱくと口を動かす。
「上? 上に一体何が……」
そのときだ。
斜め上から真っ白な光の粒が降ってきた。
――赤い光……?
リュカは反射的にゼノの顔を見た。ゼノは嬉しそうに笑って頷いた。そしてリュカに背中をばんと叩き、光の方を指さす。
そちらへ行けと言うことだろうか。
「わかった、そっちに行けばいいんだな? ゼノ、いっしょに――」
ふいに身体がぐっと上へと引き上げられるような感覚を感じた。身体がふわりと浮き上がりはじめる。
「あ、ゼノ……!」
リュカは咄嗟にゼノに向かって手を伸ばした。ここで離れれば、二度とゼノには会えないような気がした。だがゼノは必死に手を伸ばすリュカに手を振っている。
「待って、ゼノ! ゼノも一緒に行こうっ」
離れたくない一心でリュカは叫んだ。だがゼノは困ったように微笑んで、首を振った。
「嫌だ……! 一緒に行こう! 一緒に……」
リュカの身体はすでに、まばゆい光の中に包まれていた。ゼノの姿が遠くなる。身体がどんどん浮き上がる。
『――さよなら』
ゼノの優しい声が聞こえた気がした。
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