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第5話
案内された部屋で、公爵は目を細めマリアノワを見た。
負けじと見つめ返したマリアノワは、しかし身長も高く氷のような銀髪に、あまりにも整った容姿から発されるオーラの圧に膝を突きたいとすら思っている。
「あの場で、よくあのような物言いができたな。素直に感心したぞ」
「ぁ……申し訳ございませんでした。今更ながら、大変生意気であったと思います」
「構わない。俺に対しああいう態度を取るのは、国王陛下かそなただけだがな」
「!」
あまりにも恐れ多いことをしてしまった。
自身の行いを思い返し頭を抱えたくなるが、繋がれたままの手のせいでそれは叶わない。
「俺には多くの味方が必要なのだ」
「──え?」
唐突に語られた彼の真意に、マリアノワは首を傾げる。
「噂のせいで、誰彼構わず殺すような恐ろしい人間に仕立て上げられてしまった。しかし無駄な殺しなぞしたくもない。服も剣も汚れるし、何より矜恃に傷がつく。だからこそ、そんなことをするはずがないと皆が思うような、人の心を持ち、妻を大切に扱う夫の姿を、世間に見せつけなければならない」
「……なるほど」
確かに、それなら公爵に対し怯えている様子を微塵も見せてはならない。
これはきっと、リリアナには務まらないことだ。
「ですがやはり、私は男です……」
「関係ないと言っただろう。世継ぎには困らない。甥がいるからな」
そういう問題ではないのだけれど。
マリアノワはそう思ったが、切り替えて頭に浮かんだことを問い質すことにした。
「……承知しました。ならば一先ずは、私たちが仲睦まじいという姿を民衆に見せなければならないのですね? 婚姻の儀はどうされます? 盛大に行うのですか?」
マリアノワの問いに、彼はニッと笑った。
話が早くて助かる、とでも言いたげだ。
「そうだ。街の一部を立入禁止とし、この公爵家から王宮まで、民衆の見世物となる。そして王家に報告を終え、指輪を見せびらかしながら、同じようにここに戻ってくる」
ついその光景を想像し、マリアノワは不安に思っていたことさえ忘れてふっと笑っていた。
「何かおかしいか?」
不思議そうに尋ねてきた公爵に「いえ」と笑いながら返す。
「まるでパレードではありませんか? それに、それだけ盛大なことをされては、本当に公爵様が私のことを心の底から好いていると思われてしまいますよ」
「……構わん。それが目的なのだから」
ふいっと顔を背けた公爵は、そのまま部屋を見渡すと「ここを使え」とただ一言言った。
「衣装の採寸は、今日の午後にでも。入用なものや困り事があれば何でも侍従に伝えなさい。俺は基本執務室にいるが、何かあれば来てもらって構わない」
「お心遣い、感謝いたします」
そうして頭を下げたマリアノワに、エディセレンは眉を寄せた。
「その堅苦しい言葉遣いはもうやめろ。夫夫関係となるのだから。俺のことは……エディとでも呼べ。俺は貴殿をマリーと呼ぶ」
「ま、マリー?」
「なんだ、嫌か」
「ぁ、いえ」
呼ばれたことのない呼び名だった。それに、公爵をエディと呼ぶだなんて、それも恐れ多い。しかし彼本人が望んでいることを、無下にはできない。
「では、あの……エディ、と」
「! 良い。自然とそう呼んでくれるようになるのを、心待ちにしている」
彼はそう言って部屋を出ていった。
まるで怒涛の人生が始まったと、ただそう思った。
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