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第8話
さて、望んでいたアフタヌーンティーを共に、という形は無理であったがしかし、かなりの短時間でそれなりに距離は縮まった。
邪魔にならないよう執務室から出ようとしたマリアノワに、エディセレンからの声が飛ぶ。
「マリー、こちらに」
「? はい」
そして机を挟み、彼のすぐそばに近づくと、「横に来い」と言われてしまう。
「失礼します」
そう言って横に行くと、彼がずっと眺めていた資料が目に入った。
「……エディ、これは私が見てはいけないものでは……?」
「構わない。これを、どう思う」
それには金の流れが書いてあった。
一見しておかしな所は何もない。しかし、それが不気味である。
「……少し、おかしいですね」
「やはりそう思うか」
「ここ。この部分。精査されすぎている気がします。この帳簿は?」
「我がコーディライ一族の物だ。俺の知らないうちに、ネズミが紛れ込んだようだ」
「……」
マリアノワは顎を撫でると、そっと資料に顔を近づけて睨みつける。
自然とエディとの距離が近くなるが、しかし彼はそれに気づいていない。エディだけが目を見張り、心臓を僅かにドクドクさせている。
「……今から、図々しいことを申し上げても?」
「っ、なんだ」
「……私が、この金の在処を探してみせましょう。まだ内々に婚姻を結んだばかり、皆に知らしめたわけではありませんから、私が貴方様のものだということを知る人間は少ない。それならば、ポロッとぼろを吐く者がいるやもしれない」
こういったことは今まで幾度となくしてきた。
男爵家の嫡男は使い勝手が良くないとすぐに見捨てられてしまう。
「……できるのか?」
「貴方様が望むのなら」
「……ならば、俺の目の届く範囲だけだ。何かあればすぐに介入する。そのつもりでいなさい」
「承知しました」
「それから」
「?」
マリアノワは僅かに首を傾げ、至近距離で彼を見た。その瞬間、あまりにも彼と近い距離にいた事に気がついて慌てて体を離す。
「し、失礼しました! つい!」
「……構わない。俺が言いたいのは──固くなるな。"貴方様"などと呼ばなくていい。言っただろう。エディと呼べと」
「ぁ……」
「癖なのかもしれない。しかしゆっくりで構わないから、俺と対等に。俺が上で、マリーが下なのではなく、同じ場所に立っているのだと、その内でいい、理解してくれ」
スカイブルーの瞳に見つめられ、心臓がうるさく音を立て始める。
距離を取ろうとすると、腰に回された腕によってより引き寄せられた。
「逃げるな。約束しろ」
「っ、」
「俺と同じ立場であり、それを理解すると、約束するんだ」
命令にも似たそれは、しかしとても優しいものだ。
マリアノワはくしゃりと表情を歪めると、小さく頷いた。
「約束いたしましょう」
「……だから、堅苦しいのはやめろと言っている」
「〜っ、わかった! やめる! これでいいか!」
完全なる素を出せば、エディセレンはまた高らかに笑った。まるで、それでいいと言われているようだった。
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