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第9話

「ふっ……素の喋り方は、なかなか威勢が良いのだな」 「〜〜っ、誰のせいでこうなったと……!」  思わず顔を真っ赤にして睨みつけると、エディセレンは心底満足そうに口元を緩め、ようやく腰に回していた手を解いてくれた。  解放された反動で半歩ほど後ろに下がると、熱くなった耳たぶをこっそり指先でつまむ。心臓の音がうるさくて溜まったものではない。 「……さて、冗談はここまでにして、ネズミ捕りの件だ」  マリアノワはコホンと一つ咳払いをすると、一瞬で『男爵家の有能な嫡男』の顔に戻り、机の上の資料へ視線を落とした。その切り替えの早さに、エディセレンが感心したように眉を上げる。 「この帳簿、金の流れが綺麗に処理されすぎているが……逆に言えば『表に出せる数字』しか載っていないということ。裏の金流を作るには、必ずどこかで現金の引き渡しや、架空の物品発注挟んでいるはず」 「ふむ。具体的にはどう見る」 「コーディライ家の威光を恐れて誰も口を出せないのを良いことに、特定の商会と結託している可能性が高い。……エディ、この帳簿に関わっている主な取引先商会のリストは?」 「ああ、これだ」  エディセレンが手元の引き出しから差し出した羊皮紙を、マリアノワは素早く、まるでスキャンするかのように目を通していく。  そうして、細い指先がひとつの名前にピタリと止まった。 「……やっぱりだ。『マルチェロ商会』」 「知っているのか?」 「ああ。表向きは貿易商、けれど裏では金払いの悪い小貴族の弱みを握って不正な融資を行っている噂がある。私も以前、知り合いの伯爵子息から相談を受けて裏を取ったことがあって……。ここにコーディライの裏金が流れている線が濃厚かな」 「……ほう」  エディセレンのスカイブルーの瞳が、驚きと感嘆でわずかに見開かれる。  まさか下級貴族の青年が、王都の裏社会のネットワークまで把握しているとは思わなかったのだろう。 「マルチェロ商会の主・ゲイリーは、極度の『権力主義者』で『小心者』。だからなにより、大物に弱い。……そこでだ、エディ」  マリアノワは不敵な、それでいてどこか楽しげな笑みを浮かべてエディセレンを見つめた。

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