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第10話
「近々、彼らが主催する競売会か夜会があるはず。そこに私は『公爵のお気に入り』として潜入しようと思う」
「……待て。危険すぎるのではないか?」
「大丈夫。私一人で行くわけじゃない。できれば『公爵家の紋章が入った指輪』か『特別な使い込みの品』を借してくれないか。それを見せつければ、小心者のゲイリーは『公爵の寵愛を受ける男』に揉み手で近づいてくるはずだ。そこで調子に乗った振りをしながら、ポロッとぼろを吐かせる」
「……」
エディセレンは黙ってマリアノワの言葉を聞いていた。
危険な潜入捜査であるはずなのに、マリアノワの瞳は活き活きと輝いている。妹を守るために必死だった時とは違う、彼自身の『知性と度胸』が最大限に発揮されている瞬間だった。
(……これほどの男を、男爵家に埋もれさせておいたとはな)
エディセレンの胸の奥で、熱い塊がじわりと広がる。
男爵家の娘と結ぶはずだった婚姻を、まさか嫡男と結ぶことになっただけでも予想外の出来事であるのに、その聡明さと勇ましさを、本当の意味で手に入れたいと思い始めている。
そして今は、この賢い男と『対等なバディ』として肩を並べられる歓喜が、公爵の心を強く揺さぶっていた。
「……面白い。その作戦、乗ろう」
エディセレンは立ち上がると、自らの左手の中指にはめられていた、大きなマリンブルーの宝石が嵌め込まれたリングを外した。
そしてマリアノワの手を迷いなく取り、その細い親指へと静かに滑り込ませる。
「っ……エディ?」
「コーディライ家の当主のみが持つ、家印の指輪だ。これがあれば、公爵家そのものを背負っているのと同じ意味を持つ。……マルチェロどころか、王族であってもお前に手出しはできん」
「な、そんな大切なものを……!」
「言ったはずだ。俺と同じ場所に立てと。……そして、もう一つ条件がある」
指輪を嵌め終えた手を離さず、エディセレンはそのままマリアノワの手の甲へ、深く、誓うようなキスを落とした。
美しい唇が肌に触れ、マリアノワの全身に電気のような衝撃が走る。
「当日は、私も姿を隠し、お前の"護衛"として同行する。マリー一人で危険な場所に放り出すつもりはない」
「っ!?」
「逃げられると思うなよ、マリー。お前はもう、俺の共犯者なのだから」
口元に笑みを浮かべたエディセレンを、マリアノワは真っ赤な顔をして見つめた。
まるで本当に愛されているのではと勘違いしてしまいそうだ。
「そっ、そういうことは、本当に心を寄せる相手にだけした方が……っ!」
「?」
「……っ、はぁ。まぁいいかぁ……」
お気に入りのフリをするのなら、こういうことにも慣れていないと。
作戦を遂行する為なら、なんでも受け入れようと、マリーは少し呆れた顔で息を吐いた。
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