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第11話
さてマリアノワ。まずは会場に忍び込むのに見た目を少し変えなければならなかった。
ふと視界に入った自身の髪。
「……まずは髪を切るか」
「待て。なんと言った」
「え? 髪を切るか、と」
くしゃり、前髪を掴む。これを無くすか、後ろに撫で付けるか。
髪型を少し変えるだけでも、雰囲気が変わりマリアノワ・サロディアンだとすぐにはバレないはず。
普段着ないような服を着てみよう。あたかも"愛されている"かのような服を。
それから、立ち居振る舞いももう少ししなやかに。
マリアノワはそう考えていたのだが、エディセレンにジッと見つめられていることに気が付き、首を傾げる。
「何か?」
「……髪は切らないように」
なぜか厳しい顔をしたエディセレンに困惑するばかりである。
「え……? 少しくらい変装はしないと。私の顔をゲイリーは知らないとは思うが、他が分からない。念には念を入れて──」
「しかし……綺麗な髪が勿体ない」
「……」
マリアノワは呆れたように息を吐きながら目線を斜め左上にやり、下を向いたあとにジトっと公爵を見る。
そんな無礼な態度を取っても、エディセレンは眉一つ動かすことはない。
「綺麗だとか、そんなことはどうでもいい。私が私だとバレないようにしなければならない」
「……俺のように仮面をつければいい」
「仮面?」
「公爵は"お気に入り"の顔を見せたくないんだ」
「……」
そう言われてしまうと、断る理由は特になかった。
確かに、顔も見せたがらないほど愛されているのだと、知らしめることができる。
「わかった。けれどエディ、一つだけお願いが」
「なんだ」
「さっきも伝えたように、私は以前、知り合いの伯爵子息から相談を受けて裏を取ったことがある。顔は割れていなくても、万が一私の名前や正体が噂としてゲイリーに伝わったら最悪ゲイリーは私を煩わしく思い、何か行動を起こす可能性がある」
一つだけ、マリアノワにも不安なことがある。だから、エディセレンにはその不安を払拭してほしかった。
「この潜入の話は無かったことにするか?」
「それでは何も解決しない」
「では、願いとは?」
「……図々しい願いであることはわかっている。ただ……もし、私に何かがあった時、その手がサロディアン家に伸びることが不安だ。両親に妹が危険な目に遭うことだけは避けたい」
「……」
「だから、そうなった時は、私のことは捨ておいて構わないから、両親と妹を守ってほしい」
二人とも、交わる視線を逸らすことはしない。
沈黙が重たい。
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