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第3話 「お前は俺を殺しに来たの?」

 振り切るように目を開けると、たった今まで叫びを吐き散らしていたように口が開いていた。鼓膜を撫でるのは、ぱちぱち、と爆ぜるなにかの音。  火。  夢の残滓を引きずり、とっさに身を縮めたところで、シリルは自分の体が毛羽だった掛布に覆われていることに気づいた。洗濯されたもの特有の清しい香りが、先程まで自分がいた世界とは繋がらなくて混乱する。 頭上に見えたのは化粧板で塞がれることもなく剥き出しに組まれた梁。古いものなのだろうか。煤けて黒ずんでいる。次いで見えたのは、無骨ながら一目でしっかりした作りだとわかる椅子。それから。 「ひどい顔色してんなあ」  低い声が落ちてくる。声の先に視線を向けると、こちらを食い入るように見つめる男がいた。  瞳は黒く、異国人が多いこの国においてもあまり見ない色をしている。短く切られた髪も瞳と同色。機敏そうなしなやかな体躯に反するように、顔立ちは繊細で、流れ落ちる滝めいた鼻梁や、上唇が薄く、下唇だけが程よく厚い唇、すっと目尻が切れた涼しげな目など、思わず見つめてしまいたくなる華がある男だった。 「大丈夫?」  言葉は親切だが、声には面倒臭さが滲んでいる。なんだか苛ついたが、実際、元気がみなぎっているわけでもなく、すぐに返事ができない。頭はぐらぐらするし、体はだるく、手足にも力が入らない。 「俺……なんで」  やっとのことでひねり出した声は完全な嗄れ声だった。しかも出したとたん、ひりつくように喉が痛む。 「ああ、いいや。しゃべんなくて。黙ってていいから首振るので答えてよ」  答える? なにを? と首を傾げたシリルが横たわる寝台に男がすっと座る。寝台を支える木が軋む、ぎしり、という音が頭の下で聞こえた。 「お前は俺を殺しに来たの?」  深淵から響くような声音で男は言った。華やいだ容姿とは対照的な、ぞっとするほど冷たい光が黒い瞳の奥からこちらへ注がれていた。 「俺の名前、誰から聞いた?」  男の長い指には、シリルが懐に忍ばせていたはずの紙片があった。それを男は容赦なく暖炉に投げ込む。炎に飲まれる紙の行く末を見守ることなく振り向いた彼は、ねえ、と言いながらシリルの頭の横に片手をついてこちらへ顔を寄せてきた。 「答えろ。答えないと、痛いことして吐かせないといけなくなる。俺、拷問は苦手なんだよ」 「あ……」  だめだ。答えたいけれどうまく声が出ない。 「聞こえてる? お前、誰に頼まれて俺を……」 「首,振る、だけで、いいって言ったのに」 「は?」  寄せられていた眉根が弛緩する。その顔を必死に睨み上げる。男はしばらくシリルを見下ろしてから、ああ、と間の抜けた声を漏らした。 「そりゃそうだ。俺が言ったんだった。悪い」  なんだこいつ。胡乱な思いが思いっきり顔に出てしまったろうか。男は再び渋面を作った後、皮肉げに唇の端を持ち上げた。 「考えてみればこんな刺客いないか。あんな山道で倒れちゃうくらいだし。それともあれ? 油断させてブスって殺るタイプ? 残念だけど俺は強いからやめておいたほうがいいよ」 「なに……あんた……」  本当になんなのだろう、こいつは。憤慨し、身を起こそうとするシリルを男はつまらなそうに見ている。地面でもぞつく虫でも見るみたいな眼差しに苛立ちが募った。 「こっちだ、って、信じられ、ない」 「なにが?」 「あんたが、本当に、ヤン・デ・カヌ?」

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