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第4話「俺はね、禁忌を犯したいんだ」

 そう。先程目の前のこの男によって焼き捨てられた紙に記載されていたのは、ある男の名前と所在地だ。師であるジェラールによって探し出してもらったその男にシリルは賭けていた。ヤンならば望みを叶えてくれると信じていたから。  ヤンは、世の魔術師が使う光魔術の始まりの術といわれながら、迫害され、失われていこうとしている古術、闇魔術の使い手とされる人だから。  けれど目の前のこの男からは、想像していたような偉大さはかけらも感じられなかった。ぶっきらぼうで軽薄。貫禄なんてかけらもない若造だ。 「期待外れもいいとこ……」 「なに期待してたんだか知らないけど、そっちは名乗りもしないで人の名前を呼び捨てとはいい度胸だな。自己紹介しろや、坊や」  ……誰が坊やだ。二十の俺と比べても二、三年上といったところだろうに、偉そうにするなこの野郎。  いまだ霞がかかったような頭でそう思ってから、シリルは場違いにも苦笑してしまった。  ああ、本当に口が悪くなった。こんな姿を見たらもう誰も癒しの天使なんて呼ばないだろう。でもそれでいい。あんな称号、もういらない。ほしいのは別のものだ。 「名前教えたら、あんた、俺の願い叶えてくれる?」 「なに、願いって」 「妹の……」  仇を取るために力を貸して。  言いかけて口を噤む。くっと目を伏せたとき、お前ってさ、とヤンが口を開いた。 「あれに似てるって言われない? 癒しの天使。いや、違うか、癒しの天使は王都にいるんだっけ。でも銀髪に赤い目って、癒しの天使と同じ。珍し」 「癒しの天使は、もう、いない」  吐き捨てるとふっとヤンが目を見張った。まじまじとこちらを覗き込み、唇を薄く開く。 「もしかして、シリル・ド・レイ本人?」  イエスと答えるべきか。ノーと答えるべきか。妹が反逆者として処刑された今、自分は王の信奉者から命を狙われる身だ。迂闊に名乗るべきじゃないかもしれない。けれど。 「ヤン・デ・カヌ。取引、しない?」  ヤンの眉がまた顰められる。鋭い視線に負けまいと瞳に力を込めながらシリルは必死に寝台に手をつき、体を起こす。視界が揺れる。ここのところ満足に食べてもいなかったし、眠ってもいなかったからなのだろう。あるいは人のためではなく自分のために魔術を使ってしまった反動かもしれない。でもそんなことに構ってはいられない。 「闇魔術師(オブスキュリティ)のあんたがここに潜んでいること、この辺りの村に触れ回ることが俺にはできる。でも俺はそうしない。あんたが俺に協力してくれたら」 「……協力?」  ぱちぱち、と暖炉で薪が爆ぜる。その音があの日を思い起こさせて吐き気がこみ上げたが、悲鳴を上げる内臓を叱咤して、シリルは微笑んだ。 「俺はね、禁忌を犯したいんだ」

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