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第9話 「人ならざるものに墜ちるからって、なに?」

 シリルが妹の死の顛末とここまでの道のりを語り終えると、ヤンは長く黙った。そうして、ぎしり、と音を立てて寝台から立ち上がる。  正面から塞ぐように暖炉の前に座った彼は、火箸で薪を突いて整えてから言った。 「噂は聞いてた。王の暗殺を企てたやつがいたとかなんとか。証拠も見つかったって話だよな。お前はそれ、納得してないってことか」 「当たり前だ! アリスはそんなことしない!」  意図せず声が跳ね上がった。が、とたんに喉が激しく痛み、シリルは上半身を倒した。肩で息をしながら掛布をぎりぎりと握り締める。  痛んでいるのが喉なのか心なのかわからなかった。 「なにが癒しの天使だ。癒しの魔術をいくら民に施したとしても妹ひとり救えなかった。新術なんて呼ばれてるけど、光魔術なんて古術である闇魔術の劣化版。望むものは得られない」 「闇魔術ならできるって?」 「できるよね。闇魔術は光魔術とは違う。光魔術みたいに誰かのためにしか使っちゃいけないなんてばかばかしい制約もない……人を殺すことも、できる」 「で? 俺に誰か殺してほしいのか?」  ぱちぱちと薪が火花を散らす。耳を塞ぎたくなるその音の狭間から、ヤンの溜め息が響いてきた。 「断る。そんなこと俺がお前にしてやる理由がない。言いふらしたいなら言いふらしな。ここを出て身を隠すだけだよ」 「あんたにやってくれなんて言ってない」  掛布にうつ伏したまま言うと、彼がふっと小さく息を吸い込む音が聞こえた。 「それ、なに? 禁忌がどうとか言ってたけど、お前自身が新術捨てて古術で復讐したいって話?」  ああ、話が早い。この男、頭は悪くなさそうだ。 「俺が知ってる術じゃ、できない。光魔術は自分の得のために使えば術者自身を殺すから。でも、あんたが知ってる術ならできる」 「どうなるかわかって言ってる、よな?」  声には呆れと戦きが半々に混ざっていた。ゆるゆると顔を上げると、暖炉に向いていたはずの彼の顔はこちらに向けられていた。  彼がなにを危惧しているのか、シリルにはわかりすぎるほどわかっていた。魔術を学ぶ者なら誰もが知っている理(ことわり)なのだから。  光の洗礼を受けたものは光の魔術しか、闇の刻印を受けたものは闇の魔術しか生涯使うことが許されない。光が闇の、闇が光の術を使うことは神に背くことだとして厳しく禁じられている。もしも破ったならば、人ならざる者へと墜ち、心も体も失うと言われている。 「人ならざる者に墜ちるから、なに?」

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