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第10話 ――眠りな。

 くっと頬がひきつる。笑みの形に唇が吊り上がっていくのが自分でもわかる。笑いたくなんてない。でも嘲笑わずにいられない。  アリスが処刑されたとき、広場には大勢の人間が集まっていた。中には、気の毒に、と言って目を背ける人間だってもちろんいた。でも、今のリッセルでは王信奉者が大半だ。その大多数はアリスに石を投げた。燃えて崩れ落ちていく妹に、悪魔、と唾を吐きかけた。 「人ならざる者のほうが百倍まし。人間より」  そんなくそみたいなやつらのために、今まで宮廷魔術師として多くの力を使ってきた。病に苦しむ人がいたならば痛みを取り去り、日照りが続けば雨を降らせた。井戸の水が枯れたならば水脈を復活させた。赤ん坊が眠ってくれないと目の下に隈を作った母親に頼まれれば、風の歌を子守歌がわりに聞かせてやった。  そこまでしたのに、得たのはこんな仕打ちだ。 「情けは人のためならず、なんて東の果ての国では言うらしい、けど。誰かにしたことが巡りめぐって自分にもかえってくるなんてあるわけない。あったなら、あの場で救われなきゃおかしい」  お兄ちゃん、助けて。  耳の奥でアリスが泣き、ずきりと頭が痛んだ。強く目を閉じ、片手で自身の髪を掴んだときだった。  ふわり、となにかが頭に触れた。 「なんか一個だけわかったわ」  頭痛のせいで霞む目を上げると、間近にヤンの瞳が見えた。黒いそれが暖炉の光を受けてゆらゆらと揺らめく。同情めいた表情で彼はシリルの髪をそうっと撫でる。憐れむなこのくそ野郎。言葉にはしなかったけれど、その思いを込めて彼の手を払おうとした。でもできなかった。  振り上げた手は大きな手によって包み込まれていた。 「お前に今必要なのは、これだと思う」 「は? なに」  言いかけたシリルの前髪が長い指でさらっと上げられる。あらわになった額に寄せられたのは、引き締まった唇。  初対面の男にされていいことじゃない。なにしやがる、と自由なほうの手を振り回そうとしてぐらっと目の前が揺れ、体が傾いだ。 「今はとにかく眠りな。起きたらちゃんと聞いてやる。だから」  ――眠りな。  低い声が囁く。その声に抱かれるようにして、シリルは意識を失った。

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