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第12話 この男、苦手だ。
ヤンの目は床に向けられていた。
「なんで裸足なの。床、木くずで足怪我するし、雪、積もってるのに」
「あんたが靴隠したくせに」
こちらは絶対悪くない。顎を上げて言い返すと、あー、と呟き、彼は自身の額を叩いた。
「穴開いてたから思わず修理しちゃったんだった。くそ、まあいいや」
目の前の男は口の中でなにやらもぞもぞと呟いている。が、裸足かどうかなんてどうだっていい。
「話、聞いて。それで」
言いかけてそこで言葉が宙に浮いた。
いや、言葉だけではなかった。
「……っにすんだこら!」
長い腕が脇の下と膝裏に入りそのまま抱き上げられていた。
「雪の上歩かせるわけいかないだろうが。暴れるなよ。面倒臭い。あと口悪い」
「うるさい! 面倒臭いなら下ろしてって!」
「俺が嫌なの。お前の足にしもやけできるの。だからじっとしてろって」
「は⁉」
間近い距離から言われてなぜか動揺してしまった。この男は一体なんなのだ。思いもよらない言動ばかりでどんな反応をしていいのだかわからない。言葉を探している間に、先程までそれほど気にもならなかった寒さを急に思い出してしまった。軽く身震いすると、体がきゅっと彼の胸元へ引き寄せられた。
「飯、食べよう。っていうか、お前、どんな生活してたの。がりがりだし。肌荒れてるし。なにするにも体力あってでしょうに」
呆れた口ぶりで言い、ヤンはシリルを抱えたまま器用に扉を開ける。雪で覆われた地面を彼の靴が踏むざくりざくりという音だけが響く。
その音しか聞こえなくて、不意に不安になった。
「家、ここしか、ないの」
「あ? いや、もうちょっと下りると人住んでる。って言っても二リールはあるかな」
「ひとりで、ここに?」
「なに、諜報活動かなんか?」
「そういうんじゃない。ただ」
……ひとりで暮らすには寂しい場所だと思っただけだ。
けれどそれは言わなかった。彼の顔に悲壮感はない。ここでの生活になんの不満も感じていないのだろう。だとしたら、部外者がとやかく言うのは無遠慮で境界を侵す行為だ。
そこまで考えたところで、自身に呆れた。
どうだっていいじゃないか。他人なんて。今大事なのはこの男が闇の魔術の使い手であり、こちらの目的に不可欠だということ。ただそれだけだ。
「とにかく、話をさせて」
「いいけど。俺、腹が減ってると判断力が一割に低下するよ。それでいい?」
いいわけあるか。睨みつけるが、怯ませるどころか目を見張られてしまった。
「目も綺麗なんだな。紅玉みたい。うわー、なんだろ、この感じだとペーパーウェイトとかにしたらよさそう……」
なんだこいつ。
背中を反って彼から距離を取る。が、抱えられたままだから大して離れられない。
「腹が減ってはなんとやら。お互いに」
な、と片目を瞑る彼からシリルは顔を背ける。
この男、苦手だ、と強く思った。
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