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第13話 「本気で墜ちる覚悟あるの、お前」

 母屋に辿り着いた彼がシリルを下ろしたのは、元通り寝台の上だった。 「行儀悪いってじいちゃんが生きてたら怒られるけど、今日は寒いし、そこで飯食うことを許してやろう」 「じいちゃん……」 「俺の祖父。魔術の師匠」  さらっと言われ、はっと顔を上げる。が、彼は話を続けることなく背中を向けて台所へ向かう。ややあって戻ってきた彼の手には盆があり、そこにはスープが満たされた器がふたつとパンが数個入った籠があった。  目覚める直前に嗅いだ香りはこのスープのものだったらしい。 「田舎料理だけど、文句言うなよ」  寝台の横には脚の先に車輪がついた台がある。王都でも見たことがない細工だ。手を伸ばして動かしてみると簡単に動いた。面白い。意味なく前後にゆさゆささせていると、そこに盆を置いたヤンににやっと笑われた。 「いいだろう。俺が考えたやつ。こうしておくとそこに横になったままだらだらと酒が飲める。邪魔なら足でちょっと蹴れば遠くへやれる」 「怠け者の発想……」  飛び出してしまったのは可愛げのない皮肉だった。さすがに自重し、片手で口を覆う。が、ヤンは特別気を悪くした様子もなく、スープ皿をシリルの手に握らせてきた。 「大事なことだろ。生きるって大変だけど、どうせなら少しでも楽しみたいし、楽しく生きてほしい。だから俺は自分の魔術が嫌いなんだよ」  受け取った皿は木をくりぬいて作られていた。柔らかいフォルムと温かい手触りの食器を手にしたまま、シリルはヤンを見返す。  彼はもう笑ってはいなかった。 「古術って言われる俺が継いだ術は人が持つ闇を突く。心を捻じ曲げ、弱みを暴き立て、魔物を呼び出し、世界を蹂躙する。理ってやつをことごとく無視し、容赦なく従わせてしまう下法だ。自然の摂理に寄り添い、人を助けるためにと花開いていった新術、光魔術とは根本から違う。だから禁忌なんだよ。そんな真逆な力、ひとりの人間が持つことはこの世界の道理に合わないから……なあ」  ヤンはこちらを斜めに睨み上げるようにして言葉を継いだ。 「本気で墜ちる覚悟があるの、お前」

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