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第14話 「お前の命なんて」

 墜ちる覚悟? その問いが心底おかしかった。 「あんたはある? 大事な家族が見世物みたいに大衆の前で殺された経験」  ヤンの目がひきつるように細められた。その彼の目を覗き込む。真っ黒な瞳の中に綻びを見つけようと身を乗り出す。 「墜ちる? 今更なんだよ」  ヤンもこちらを見返してくる。たじろぐ様子はなかった。ただなにかを読み取ろうとするような探る気配がそこにはあった。 「お前の望みってなに? 国王を殺すこと? 国を滅ぼすこと? それとも……妹を生き返らせること?」  生き返らせる? そんなことまで可能なのか、と内心驚いた。でも彼の言葉で決意はさらに固まった。やはり光魔術は闇魔術には遠く及ばない。ここへ来た自分の判断は正しかった。 「全部。全部壊して、アリスのことも取り戻す」  だからそう言って挑むように笑った。すると、ヤンの顔はますます歪んだ。 「無理だろ。古術だって完璧じゃない。全部を叶えることはできない」 「そうかな。光の魔術師(リゼル)が闇に墜ちればできないことはないという文献もあったけれど。人ならざる者に墜ちるって、神になるってことなんじゃないの?」  ヤンは嫌なものを見たように目を眇めている。引き結ばれた唇は不快感を隠しもしない。でもこちらだって引くわけにはいかない。息を詰めて目に力を籠めると、まあいいや、と投げやりな声が返ってきた。 「壮大な夢抱くのは結構だけど、光の洗礼受けてるお前じゃ使えるようにはなんないから。それでも諦めないってなら地下に本あるから、勝手に勉強したら」 「教える気はないってこと?」 「人に簡単に教わろうと思うなよ、坊や」  消えていた笑みが口許に戻る。盆に置いたままになっていた、これも木で作られた匙が手に押しつけられた。 「とにかく食いな。今日のは贅沢品。牛の乳入ってるんだから。無駄にするな」  押されて思わず匙を受け取ってしまう。が、食事なんてどうでもいい。教えてくれないならそれはそれで仕方ない。せめて闇の魔術師(オブスキュリティ)に伝わる文献を熟読し、一刻も早く術を会得しなければ。時間を無駄になんてできない。と、受け取った器と匙を戻そうとしたが、一瞬早く乱暴な足によって台が遠ざけられた。遠ざけたのは当然ながらヤンだった。 「無駄にするなと言ってるだろうが。それ食うまでは外出禁止」 「禁止? あんたになんの権利が……」 「権利ならあるだろ。ここは俺の家。お前は居候」  居候だと。いらっとしたが、考えてみればそう言われても仕方ない状態にあるのかもしれない。というより、こいつの扱いはずいぶんましと言ってもいい。  王の命を狙った反逆者の兄を匿ってくれる人間がこの国にどれほどいるだろう。しかもシリルは癒しの天使なんて呼ばれてしまうほど顔が売れてしまっていたのだ。ここまで辿り着くまでの間にも何度命を狙われたかわからない。それに比べれば……と納得しかけたところでふっと思い直す。  まだ信じるのは早い。このスープの中に毒が入っている可能性だってある。  ……いや、でも、だとしたら俺が昏倒している間にとどめを刺せば……。 「百面相してるとこ悪いけどな、そのスープに毒は入ってない。お前の命なんてもん、俺はいらない」

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