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第15話 「食べな」

「な、んで」  思いきり寝台の上で跳ねてしまった。呆れたような顔をしたヤンが、寝台の脇に椅子を引きずってきて腰を下ろす。 「あてずっぽうで言っただけ。お前さ、めちゃくちゃ顔に出るのな。そんなで復讐なんてできんの? 諦めたら?」 「で、でも、毒が入ってない証拠、ない、よね」 「しょうがねえなあ。ほんと面倒臭い」  これ見よがしな溜め息をついたヤンの手によって皿が奪われ、中身が匙で掬われる。唖然としているシリルの前で音を立ててスープはすすられ、次いで盆の上にあった籠からパンが掴みだされた。 「ほれ、これで一連托生」  むぐむぐと噛みしめ、口の中のものを飲み込む。赤い舌でぺろっと唇を舐め、彼は笑った。 「死ぬときは一緒だよ。わかったか」 「死ぬときは、一緒って……」  なんだ、その台詞。苦い顔をするシリルの手に皿が差し出された。それでも受け取るのを渋っていると、一段と深い息を吐いて、ヤンがスープを匙で掬った。匙の先が口許についと突きつけられる。 「食いな。坊ちゃん」  腹が立つ。つくづく変な男だしまったく信用ならない。だが、多分、なんとなく、本当になんとなくだけれど、毒は入っていない気が、する。  そろそろと唇を匙に寄せ、口を開けると、思ったよりも丁寧な手つきで匙が口の中へ差し入れられた。柔らかな舌触りの後、じわりと熱が喉元から胸へと広がる。  なんてことのないポタージュスープだ。でもその何気なさに瞼が熱くなった。  このなんてことのないものを、少し前までは普通に食べていたのに。  アリスと、一緒に。 「食べな」  声が優しく促す。もう一口差し出され、はずみで口を開こうとしたが、そこではっとした。  会って間もない男になんでこんなことをされているのだろう。 「じ、ぶんで、食べる」  彼の手から皿を奪うと、あっそう、と匙はあっさりと引っ込められた。そのまま興味をなくしたように彼の手は自身の皿へと伸びる。  黙々と食事を始める男を、シリルは自分も食事をしながらそうっと窺った。  考えてみればここまで夢中過ぎて全然周りが見えていなかったけれど、この男のことをあまりにも知らなすぎではないだろうか。 「あんたってここにひとりで暮らしてるの?」 「見るからにそうだろ」 「いつから……?」 「ここに来たのは半年前。父親も母親も俺が赤ん坊のころ死んで、じいちゃんに育てられたけど、この年になるまで三年と同じところにいたことがない。って、なにこれ。なにか探られてる?」  くくっと肩が揺れる。やはりこいつは野生動物級に勘がいい。注意して訊かなければ。 「魔術で生計を立てている、というわけではない?」 「ないね」  冷淡に言い切り、ヤンはパンを勢いよく嚙み切った。 「じいちゃんはまあ、その手の仕事を請け負っていた。でも、俺は全部その筋は断ち切った。魔術なんてろくなもんじゃないって思ってるから」 「どうして?」  問いかけると、ヤンが顔を上げた。すうっと目が細められ、肩がすくめられる。 「お前がそれ言う? 復讐の道具として闇魔術を使おうとしてるくせに」  なにか言い返してやりたかったが、返す言葉がなかった。仕方なくシリルは食事を続けた。  闇の魔術の使い手であるはずの彼が作った料理が、信じ難いほど温かいことに驚きながら。

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