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第17話 捨てろ、人の情なんて。

 わざとらしく息を吐き散らしながらヤンは梯子を上がっていく。その彼に続いて地下を出ると、暖炉のある部屋にはポトフの香りが満ちていた。 「で、どうよ。少しは上達した?」  部屋の中央には少し前からテーブルが置かれるようになっていた。彼が作ったものだろう。椅子は二脚で、暖炉側の椅子に彼が座り、火から遠い場所にシリルが座る。気がつくとそうなっていた。 「言う必要、ある?」 「その感じだとまだまだか。センスないな、お前」  せせら笑われ、かっとなった。皿に勢いよく匙を突き入れ高速で食事をする。さっさと食べてさっさと戻る。こいつと話している時間が惜しい。だが、そんなシリルをヤンはテーブルに片肘をついて楽しげに眺めてくる。 「一生懸命だな、ほんと」 「……馬鹿にしてんの?」 「じゃなくて。そういうの俺はやめちゃったし。だからそうだな、お前見てると少しむかつくよ」  そう言った顔に陰が差した気がした。むかつく、なんて言われたのに、それほど腹が立たなかった自分に驚きながら、シリルはそうっと匙を置く。ヤンはすでに食事を終えていて食後のお茶を気だるげにすすっている。 「あんたは……嫌いなんだね。魔術」 「んー? まあ、そうかな。古術ってやつは嫌いかも。ただ、お前が使う新術ってやつは好きだよ。そっちの術が使えたらよかったなって思う」 「……あんなもの、使えたところで」  言いかけて口を噤む。まだ残っていたポトフを大急ぎで口に詰め込んでいると、なあ、と声をかけられた。 「少し手伝ってくんない?」 「なに」 「薪に使えそうな木、そろそろ拾いに行かないとでさ。人手ほしいから」  なんで俺が、と言いかけた。が、そう言えば絶対、お前居候だよな、と笑顔で言われる。ここ数日顔を突き合わせてこいつの性格にも慣れてきた。事実、自分は居候だ。 「……少しなら」  渋々頷く。ただ……内心、思っていたことはあった。  魔術書を読み解き、術式を頭に叩き込む。それを繰り返してきたけれど、実際にそれが身に着いているかというと怪しい。術の効率的な会得方法はやはり実践あるのみだからだ。それは闇魔術だろうと光魔術だろうと変わらない。  すなわち、誰かに試してみなければ会得はできない。試せる相手はこいつだけ。でもこの狭い家の中で迂闊なことをしたら反撃されるかもしれない。防御の術も展開しにくい。でも外なら距離を取れる。  これはいい機会かもしれない。 「俺も籠ってて少し疲れたから。いい気晴らしになる」  にっこり笑ってやるとヤンがわずかに目を見張る。わざとらしすぎたか、と焦ったとき、ふっとヤンの顔に笑みが差した。 「ありがとな」  疲れた笑みでもない、馬鹿にした笑みでもない、柔らかい微笑だった。  思わず息を詰めてからシリルは頭を打ち振った。  捨てろ。人の情なんて不要なもの。こいつはただの踏み台だ。  自身に言い聞かせながらシリルは硬いパンを噛みしめた。

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