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第18話 「俺なんか拾うからだよ、ヤン」

 何日籠っていたのか、夢中だったせいで定かではない。が、久しぶりに出た外は数日前とそれほど変わっておらず、大地はまだのっぺりとした雪によって覆い隠されていた。 「こんなで枝なんて見つかる? いっそ伐っちゃえばいいんじゃないの」  刺すような風に外套の中で身を縮めて呟く。ヤンも今日は厚着をしている。背の高い彼を覆う外套の色はシリルと同じく黒。全身を漆黒に染めた彼の後ろ姿を見て、黒が似合う人だな、とぼんやりと思ったとき、つっと彼が振り返った。 「伐るのはなしかな」 「なんで。あんた家具職人だろ。いつも伐ってるんじゃないの」 「だからだよ」  針葉樹が密生するその場所は、踏み荒らされていない雪に閉ざされているばかりで、白しか見えないが、ところどころに小枝が落ちていた。それをヤンはそっと拾い上げる。 「生木は薪には向かないのもあるけど、そもそもうちはただでさえ伐る仕事をしてるんだから、自分が暖まる目的でまで伐りたくない。まあ、どうしようもなくなったら伐るけどそれは最後の手段。こいつらも生きてるんだから」  手にした籠に拾った枝を投げ込んだ彼が、お前あっちな、と指差す。不承不承頷くシリルにヤンは背中を向ける。枝を拾い集める丁寧な仕草に胸が騒いだ。  ――お兄ちゃんってどうしてそんなにお人好しなの。  ぷんぷん怒っていたのはアリスだった。だがアリスは誤解している。お前の兄はそんな良い人間ではない。魔術を使って人を救う。それが魔術師としての義務だから人を救っていただけ。目の前のこの男とは違う。言葉も交わせぬ木にまで心を傾けているこの男とは。  そう……彼はとてつもなく「良い人」なのだ。それは十分わかっている。  でもシリルには時間がない。こんなところでいつまでもぐずぐずしているわけにはいかないのだ。だから彼には悪いが協力してもらう。  遅々として進まぬ闇魔術会得に力を貸してもらう。心を、縛って。 「俺なんか拾うからだよ、ヤン」  到底届かぬ声で呟き、雪の上、シリルは遠ざかる男の背中を凝視した。次いで、胸の前で手を組み、脳内に雫をイメージする。その雫が連なり陣を形作っていく。出来上がった陣をシリルはヤンの上に浮かべた。 ヤンは気づいて、いない。

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