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第22話 「お前、やらしいなあ」
「もう、やめたら。お前は古術には向かないよ。わかってるだろ。お前だって」
手首にかかった手にきゅっと力が籠る。
「そもそもいくら魔術書を読み漁ったって術なんて使えるようにならない。試してみればいい。今日、俺にかけようとしてたよな」
まさか気づいているとは思わなかった。ぎょっとするシリルに向かい、ヤンは疲れた顔で笑って小首を傾げてくる。
「これでも古術の使い手だ。術式の気配くらいは感じられる。けどお前は優しいよ。マリーがいたからやめたんだろ。かけちゃえばよかったのに。お前は全部壊すつもりで古術を学ぼうとしてるんだから。他人がどうなろうと知ったことじゃないだろ。なのに、お前は助けたんだよな、あの子を」
「そんなんじゃない」
ああ、違うのだ。全部間違っているのだ。でも、憎いのに、壊したいのに、助けてしまった。アリスを救えなかった自分が、どうしてアリス以外の人間に情けをかけてしまったのだろう。
それはきっとこの男のせいだ。闇魔術師のくせにあまりにも善良すぎるから引きずられてしまうのだ。
……こいつのせいで、俺はおかしくなる。
「そんなに言うなら、かけてやるよ」
きっと彼を睨み据えて言う。ヤンの顔には怯えも焦りもない。ただ、痛ましそうに目が細められるばかりだ。それが一層腹立たしかった。
彼の手を振り解き、指を組む。魔術書に描かれていた陣を頭の中に浮かべる。瞳から外界へその陣を転写するようにイメージする。
――闇の炎よ。わが眼で捉えし者の心を縛れ。以後、我の命にのみ耳を傾けさせよ。
見つめ合ったのはどれくらいの時間だろう。かかったのか、かかっていないのか。試すためにはなにかを命じてみればいいのかもしれない。
「立って」
低く告げると、つ、とヤンが動いた。ゆっくりと立ち上がる。
成功したのか、と肩から力が抜けるとともに、ひやりと背筋が冷たくもなった。
今この瞬間、ついに禁術に手を出してしまったのだ。
両手が不快な汗に濡れる。それでももう戻れない。戻るつもりも、ない。
覚悟を決め、拳を握り締める。立ち上がった彼を見上げ、さらなる命令を与えようとしたとき、彼がふと動いた。
命じてもいないのに手を伸ばしてくる。
え、と思う間もなかった。すっと大きな掌が迫り、頬が包まれる。腰が屈められ、そのまま顔が寄せられ。
「……っ」
口づけされていた。
口を塞ぐ乾いた感触に完全に脳が麻痺する。唇はすぐに離れたけれど、動くこともできずにいるシリルの耳に、ヤンの笑み交じりの声が落ちてきた。
「お前、術使ってこんなこと俺にさせたの? やらしいなあ」
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