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第23話「人を殺したことがあるからなんだよ」

「やっ……」  やらしい……やらしい? 怒りから金縛りが解けた。突き飛ばそうとするが、その手をヤンはやすやすとかわす。 「悪い。ふざけた。今のは俺が勝手にしただけ。つまり、俺は術にかかってないよ」  口を押さえ、シリルは再び硬直する。  こいつはなんなのだろう。なんでこんなことをしてくる? いや、それよりも術はやはり失敗ということか。術書通り実行したはずなのにどうして。  答えをくれたのは、目の前の忌々しい男だった。 「勝手に勉強しろって言ったけど、どれだけ勉強してもお前じゃ闇魔術を使えるようになんてならねえんだよ。闇魔術は血統で受け継がれる魔術だからさ」 「は……じゃあなに。最初から騙してたってこと?」 「そりゃそうだろ。古術なんて俺は大嫌いだから広めたくなんてない。嘘だって言うよ」  なんだそれは。ここまで机にかじりついてきた時間はなんだったのだろう。  かっとなったシリルを宥めるような穏やかな声が続けられたのはそのときだった。 「ただ、ひとつだけさ、お前がね、古術で叶えたいこと、俺も応援したいって思うものがある。お前がそれだけのために古術を使うって約束してくれるなら協力してやってもいい」  ゆっくりとした動作でヤンが椅子を引く。元通り腰かけ、カップに残ったお茶をすすってから、彼はふっと息を吐いた。 「誰かを殺すためでもなく、国を滅ぼすためでもなく、ただ妹に会うためって言うなら俺はお前に協力する。古術を使えるようにしてやる」 「それ、どう、して」 「古術で人助けできそうって思ったから」  言いながら、ヤンは片肘で頬杖をついた姿勢で、テーブルに置いてあったポットからカップへざらざらと茶を注ぐ。手が伸ばされ、シリルの分のカップにも注ぎ足された。 「俺がね、古術が嫌だって思ったのは、人を殺したことがあるからなんだよ」 「呪い殺したってこと?」 「いいや、ただの嫌がらせのつもりだった。でもそれが人の命を奪った。そういう話」  彼の目が窓の外に向けられる。夕闇に呑まれていこうとする風景を黒い瞳に映す彼からは、いつもの軽薄な空気は完全に消えていた。しんと冷えた目のまま、彼がこちらをすうっと見た。 「聞く?」  いつも本心を見せない軽い口調ばかりの彼らしくもない、重々しい語り口に少し身構えた。でも、結局頷いた。  こいつの話、聞いてみたい、と思ってしまったために。

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