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第27話 口づけ
視線の先に白い洗いざらしの上衣に包まれた肩がある。そこからあの作業小屋で嗅いだ、木材の香しい香りが立ち上っていた。
「この匂い、好き、かも」
慣れない距離に心臓が小動物のそれのように短い間隔で収縮する。なにもかもが今までと違いすぎて怖くて、恐怖をごまかしたくてそう言うと、ふっとヤンがこちらを見下ろしてきた。
その彼の表情に、シリルは激しく動揺した。
……なんで今、そんな顔で笑うの。
自分達はまだ会って間もなくて、お互い自分勝手な話題でしか会話していなかったというのに。
こちらに向けられた顔があまりにも優しすぎて。
……どうしていいか、わからなくなる。
戸惑っている間に、ヤンの顔が近づいてくる。先程も触れた唇が唇に落ちる。たださっきとは違い、その口づけは、触れた、などと軽く言えるものではなかった。
弾力のある唇が唇に吸いついてくる。下唇をはみ、次いで上唇へ。そうしてひとしきり唇を唇で愛撫した後、表面だけの絡み合いじゃ足りぬというように唇の間から入り込んだ舌により、口腔内が探られた。
「んっ……ふっ……」
しかも、舌は口の中の弱い場所を容赦なく暴き立ててくる。触れられると腰が砕けそうになる場所があることを、生まれて初めて知っていたたまれなくなった。出したくもないのに、せがむような声が出てしまう。恥ずかしくてヤンの服を強く掴むと、腰を抱く彼の腕にくっと力が籠った。
なにもかも……初めてだった。他者の息遣いをこれほど間近に感じることも、こんなふうに誰かの唇と自分のそれを溶け合わせることも。
たまらず震えると、すうっと唇が離された。後ろ頭に手が回り、髪にくぐらされる。
「やめる?」
本当は逃げ出したかった。でも、ここで引き下がるわけにはいかない。
「いいから続けろってば」
「おお、頼もしい」
そこでいきなり体が浮いた。突然のことに慌てて彼の首に掴まると、耳元で囁かれた。
「そんな感じで、ここから先も俺に掴まってて。大丈夫だから」
この男とはまだわずかな時しかともに過ごしていない。それでもその大丈夫にすがりつきたくてシリルは彼の首に腕を回した。
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