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第29話 「お前、可愛いな、すごく、可愛い」
言いざま、両足にぐいと手がかけられた。足を開かれ、性器よりさらに奥、これまで誰にも触られたことのない箇所がなぞられている。
しかもそれは指でじゃない。彼の舌で、だ。
「や、だっ……そんなとこっ……やっ……怖いっ」
「怖いことなんてしてないから」
「で、もっ……そ、んな……あっ」
恥ずかしいのに舐められて体が疼いてしまう。ずり上がろうとする体をヤンの腕が引き留める。さらに抵抗しようとすると、伸びあがった彼が耳元に唇を寄せてきた。
「目、瞑って。ただ感じてて」
……いつもだったら、素直に頷きなんてしない。
ヤンはいつも偉そうで失礼で、歳がめちゃくちゃ離れているわけでもないのに、坊ちゃん、などと呼んでくる、不愉快極まりない人だ。
でも、今、耳の奥に流し込むようにしてこちらにくれた声には反発できなかった。いや、したくなかった。
どうしてだろう。足を広げられ、恥ずかしすぎることをしてくる男に、どうして。
わからないままに小さく頷いたとき、唾液で湿らされた奥地へと指が差し込まれた。う、と呻いたのはしかし、最初だけだった。
差し入れられた指によってじりじりと自身の中が広げられ始めた。鈍い痛みがあり、異物感だってある。けれどその馴染みのない感覚の中に、熱を持った点が顔を覗かせている。素肌を辿ったときと同じように、彼の指はそこを難なく探り当て執拗にいじってくる。
痛くはない。ただ、熱い。熱くて、ざわざわして。我慢できない。腰が勝手に浮いてしまう。
「あ……んっ……あ、あ……んん……」
中を掻き回すのは彼の指。でももう指だという実感はない。実態が感覚に追い越され、自分の内側はぬめりながら収縮を繰り返す。こんなのおかしいとどこかで思っているのに、自ら差し出すように腰を押しつけてしまう。もっと、とせがむみたいに、内側が蠢いてしまう。
だが、それを嘲笑うように不意に指が抜かれた。どうして、とそちらを見ようとしたときだった。不意に仰向けからうつぶせに体をひっくり返される。次いで、入り口に熱いなにかがあてがわれた。
経験は、ない。でもわかった。同性だからこそ、それがなんなのか。
彼が熱く猛っていることも。
朦朧としながらも、振り返り、確かめようとする。が、だめ、と低い声に止められた。
「さすがに恥ずかしいから、見るな」
「自分、はさんざん俺の、見た、くせに」
切れ切れに言うと彼が照れたように笑う。つられて笑ったその隙を突くように、ぐい、と押し込まれた。いきなりすぎて視界が白く飛んだ。
さっきまでとは全然違う。内側が全部一度に灼熱の海へ突っ込まれたみたいだ。なにが自分の体に起きているのかわからなくて怖い。悲鳴を上げてずり上がって逃れようとすると、大きな胸に巻き込まれるように抱きすくめられた。
「大丈夫だから。ゆっくり、するから。な」
低い声が耳の奥へと流し込まれる。そうされて、大丈夫、と信じてしまったのはなぜだろう。自分がこの状況に呑まれてしまっているから? それとも身の内にある熱いもののせい? 混乱している間に本当に少しずつ最初の衝撃が収まってきた。ふうっと息を漏らしたが、その安堵を咎めるように彼が腰を引いた。引きずり出すみたいに後退し、そしてまたぐいっと分け入ってくる。皮膚が摩擦によって熱を放ち、神経回路が一斉に火花を散らす。内側の粘膜は砂漠で水を見つけた旅人みたいに彼の中心にしがみつき、どくどくと脈打つ。
「待っ……あ、ああっ、やっ、あああっ……!」
動かれるたびに体の奥が切なくねじれる。指が届かないところまで性器で激しく触られて、熱くて、怖くて、なのに。
……溶けてしまいそう。
気がつくとシリルは夢中でシーツにすがっていた。様子を見るように緩やかだったヤンの動きも鋭さを増していく。そうされればされるほど、自分の内壁が彼に絡みついていく。全部取り込んでひとつにしてしまいたい、とでも言うように貪欲に吸いつき、絞るように彼の芯を包み込む。欲情に溺れ、淫靡な音を漏らすのは彼を受け入れる後ろの、口。
「あ、んっ……あ、あ、あ、やっ……も、んああっ……や、や、ああっ」
あれほど恥ずかしかったはずなのに声も止められない。拒絶の皮を被りながらも甘ったるく濡れた声は、平生ならば聞いていられたものじゃなかっただろう。が、声に構っていられないほど体は快楽に忠実だった。ほしい。そんな声が聞こえてきそうなほど内側は熱く、彼を離さない。
ねだるように腰を擦りつけるシリルの背中にぽたり、と水滴が落ちる。
「お前、さ……」
肩越しに見ると、彼が中を抉るたび、滑らかな皮膚を舐めるように雫が滑り、シリルの上へ降り注いでいた。
間近く瞳と瞳を見かわす。ヤンの唇が愛おしむように肩に触れた。
「可愛いな。すごく……可愛い」
長い指によって落ちた汗を拭われる。その手で顎を掴まれ、振り向かされて口づけられる。なにか返したいのに言葉にならない。突き上げられ、中を攪拌され、気持ちよくて、眩暈が、する。
理性の外で繋がっていくのを感じる。体を倒したヤンの胸が背中に重なる。触れた肌と肌を境界にして、どくり、どくり、と心臓が鳴りあう。まるでもとはひとつだったみたいなその音に体中を覆いつくされ、たまらずに彼の体にしがみついたとき、中、出すよ、と吐息のような声が耳に注ぎ込まれた。
くらっとしたのは切羽詰まった声になのか、それとも注ぎ込まれた骨をも溶かしそうな熱ゆえか。
中へと流れ込んでくる炎に脳髄が焼ける。気がついたらシリルもまた達していた。
荒い息を吐きあいながら、汗だくで体温を分かち合った。
夜の帳が下りる。闇色に沈んでいく部屋の中、もう離れたっていいのに、ふたりともしばらく重なったまま、動かずにいた。
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