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第39話 広間

 光魔術、新術と呼ばれる術は人を助けるためだけに存在し、闇魔術、古術は人の業から力を得、人を貶める邪術だと、これまで教えられてきた。  だが今、シリルはその教えが正しいとは思っていない。光魔術は人を救いなどしないし、闇魔術の中にも人を助けるものがあるのだから。  けれどそれはヤンと出会ったから知ったことだ。ここ、闇魔術師の里では光魔術師は完全なる敵。もちろん癒しの天使などと呼ばれていた当時は、シリルにとっても闇魔術師は忌むべきものだったのだからお互い様ではあるが、広場に集まった百人あまりの人間すべてに憎悪の眼差しを向けられると、さすがに体がすくんでしまう。 「癒しの天使、シリル・ド・レイか」  岩壁がぬらぬらと光る建物は煉瓦造りの建物がひしめく王都とは違う。その無骨ながらも堅強な講堂の中心に引きずり出されたシリルを壇上から見下ろしたのは、壮年の男性だった。 「どうして、俺のことを?」 「光魔術師の巣窟たる王都は常に我らの監視下にある。やつらの蛮行を許さぬためにな。だから、お前の嘗めた苦汁も我々は見ていたよ。妹を殺され、我らの術で復讐を誓う、か。堕天使とはまさにお前のことだな」 「俺はもともと天使なんかじゃない」  天使どころか悪魔だ。こちらを睨み下ろす男に向かい、後ろ手に縛られたままシリルは顎を上げた。 「妹も助けられなかった俺が天使なわけがない」 「だが、お前は今、力を手に入れただろう? 我々の同胞を踏みつけにして」 「そうだ! そいつのせいでわれらの仲間が異形に墜ちた!」 「殺せ! 光魔術師(リゼル)は殺せ!」 「長! 処刑を! 禁忌を犯す悪魔に死を!」  ざわりざわりと広間に集う者達の声が不穏な陰りを帯びていく。その声に頭の芯がかっと煮えた。 「同胞? あなた達は彼の家を滅ぼそうとしていたのに?」  鋭く言い放つと、すっと広間が静まった。その沈黙に力を借り、シリルは広間を見回す。 「離反したからなんて理由で彼の命を狙っていたくせに仲間? 笑わせるな!」  とたん、荒々しい手によって引き倒された。冷たくざらついた床が頬に擦れ、鈍く痛む。だが、黙るつもりはなかった。 「自分勝手で最悪。光も闇も関係ないな。全部壊しちゃったほうが世界のためかも」 「黙れ! この悪鬼が! もういい。長、殺しましょう。こんな穢れをいつまでも抱え込んでいるほうが災いを呼び込むわ」  壇上の男の脇に佇んでいた老人が怒鳴る。その声に同調するように広間中から声が湧き上がった。シリルの目前に立つ、長らしき男だけが黙っている。しばらくそのままでいてから彼は壇を下り、音もなく歩み寄ってきた。床に膝をつき、こちらを覗き込む。 「ヤン・デ・カヌはお前のことを、愛している、と言った。だから禁忌を犯したと。お前もまたそうなのか? お前の中にヤンへの愛情だけがあり、我ら神の術を己の欲望のために使わないと誓うならば命までは取らない。我々は新術の奴らのような蛮族ではないのだから。なあ、どうなのだ?」

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