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第47話 「してよ」
唇と唇のわずかな隙間で零れた言葉に胸の奥が痛みを伴って悶えた。うん、と半ば言いかけた。けれど、抱き寄せてくれると思っていた彼の腕は離れていく。生まれた隙間で肌が寒くなった。
「ごめん。気持ち悪いこと、したな」
それどころか、銀色に沈む左側を隠すように顔が背けられる。そうされてかっとなった。
見境なく手を伸ばし彼の顔を強引にこちらへ向ける。そのまま全部を押し込めるみたいに唇を重ねた。角度を変え幾度も唇を吸う。その間にも右手で彼の左頬を撫でた。繰り返し、愛おしむように。
触れれば触れるほど、冷たい鱗が熱を帯びる。それでも迷うような気配が彼からは漂ってくる。線を越えてこないさまがもどかしく苦しかった。たどたどしくも熱を帯びた手で彼の肌を探ると、彼がくっと目を閉じた。
「あの……もしかして、痛かった?」
異形化には痛みが伴う、と彼の許嫁だったという彼女も言っていた。彼女の顔を思い出して胸がもやりとする。だがその胸の蟠りを打ち砕く勢いで視界が反転した。
床に、押し倒されていた。
「なんでお前はこういうことしてくるの」
全身で伸しかかるようにして彼が睨み下ろしてくる。その目に宿っているのは怒りとも悲しみともつかない濁った色だった。自分の行動の身勝手さに頭がくらくらする。でも手を伸ばすのを止められない。馬乗りになられたままシリルは、彼の頬の鱗を撫でた。
「あんたと、したいから」
「こんな姿になったのに?」
言いざま彼はシリルの手を振り払い、外套を脱ぐ。中の上衣も脱ぎ捨てると、銀色は腕、肩、首筋、と広範囲に広がっていた。
「申し訳なさで体を差し出そうとするな。そんなもの俺はいらない」
「そんなんじゃない!」
彼が瞠目する。でも驚いた顔をされたって今のは許せなかった。
申し訳なさなんてそんな言葉でこの想いが穢されるのは、我慢ならなかった。
「あんたがどんな姿だって関係ない! 好きな相手にだったら抱かれたいだろ! そんなこともわかんないなんてあんたほんと馬鹿! 馬鹿馬鹿! このっ……くそが!」
ゆらゆらと火影が揺れる。不安定な光の中、ヤンの顔が歪む。
「ヤン」
その彼の頬を、シリルは祈るように辿る。
あなたに触れたい。その想いが伝わるように祈りを込めて彼の鱗に指を這わせる。
「してよ」
瞬間、彼の目から涙が伝った。そのままシリルの上へと体が倒される。抱きすくめられたその体の重さがうれしかった。
唇が唇に覆われる。絶え間なく降る雨みたいな口づけと口づけの合間で、ありがと、と声がした。
滲むその声にたまらず背中を抱くと、硬い鱗が指先を冷やした。それでも手を離したくなかった。絶対離さない、と強く誓った。
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