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第48話 「ありがと」
初めてのときは術のためにこの行為が必要だった。だから性感なんていらなかった。痛みがあったとしてもそれは目的のためなら我慢すべきものだった。
でも思い返してみるとあのとき、シリルは少しも痛みを感じていなかった。
それは彼が優しく抱いてくれたから。痛みを与えないように、大切なもののように扱ってくれたから。
そしてそれは今も変わらない。
「あ、あ……っ」
後ろを注意深く解す彼の指に体が溶けていく。背中を反らし喘ぐたび、頭をきつく抱きしめてくれる彼の腕。鱗が浮いたその左腕にシリルは指を添わせる。
……この人は、こんな俺のためにすべてをくれた。
真っ黒に墜ちてしまった俺を彼は大事に包み続けてくれた。
胸が痛くて、熱い。その熱を抱いたまま、そろそろと手を伸ばす。すでに張りつめていた彼の中心を片手で包むと、ぴくり、と彼が身を震わせた。
「いい、そんなことしなくて」
戸惑いを滲ませた声で彼が言う。低い優しい声。その声が胸に沁みる。出そうになる涙を必死にこらえ、シリルは彼をくるんだ手をそうっと動かす。
「俺が、したい、の」
手管なんてありはしない。心地よさには繋がらないかもしれない。それでもしたかった。触りたかった。気持ちよく、してあげたかった。
ぎこちなく手を上下させると、それはどんどん芯を持ち始める。それそのものに意志があるかのように彼の中心が育っていくうちに心もまた満ちていく。けれど、熱中するシリルを咎めるみたく後ろに入れられていた指が増やされ、彼から手が解けてしまった。
「やっ……も、邪魔、しちゃ……」
「邪魔ってな、んだよ」
息を荒らげながら笑みを含んだ声で彼が言う。奔放な指に後孔が一層搔き回される。長く探られていたからか指が増えてもきつくはない。ただ、とろけるみたいな快感が体をどんどんぐにゃぐにゃにしていく。声も、溢れる水音も止められない。
「こんなにやらしい音、させてるくせに」
「そんな、の」
やらしい音。その言葉を証明するように彼はさらにくちゅくちゅと中を荒らす。そうしながらずり下がり、シリル自身を口に含む。後ろの弱い場所を執拗にこすり上げられながら前を吸引され、どちらで愉悦を覚えているのかさえ曖昧になってしまう。
「やっ……そんないっぺんにしちゃ、おかしくなっちゃうっ……しちゃ、いやっ……」
「嘘つきだね、お前」
くい、と片足が乱暴に上げられ秘所をさらに指で暴かれる。高い声を上げると、声に興奮したように口での愛撫も激しさを増した。舌と言葉で辱められて、理性を奪われて、なのに、もっとしてと腰が動く。その、自分でさえ知らなかったみだらな仕草を、当然彼は見逃してなんてくれない。
「気持ちいいって、顔も、ここも、言ってるよ」
「やっ、そんなこと、言っちゃっ、あっ、ん、あ……無理っ、無理、だから……やっ、放してっ! もうっ……」
懇願すればするほどきつく吸われる。どくどく泣く裏側の血管を舌でなぞられ、上唇と下唇で全部を挟みこまれ、いつ終わるとも知れぬ愛撫をされ続けられたらもうだめだった。
高所から転げ落ちるような浮遊感とともに、ヤンの口の中へすべてを吐き出してしまっていた。
「シリル、ありがと」
……俺はなんて我慢が足りないのだろう。
落ち込むが、ヤンはただうれしそうに、額に額を押し当ててくる。
「お前が喜んでるの見て、すごく気持ちよかった。めちゃくちゃ興奮した。ありがと」
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