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第49話 焼かれて、死にたい

 誰かが喜んでくれるから施す。その誰かの笑顔が自分の力になる、幻想に似た奉仕の心。  そんなもの信じていなかった。なにも返してもらえないなら、誰かのためになんて動きたくなんてなかった。  なのに、今、思ってしまっている。なにも返してくれなくていい。ただこの人に全部あげたい、と。だから。 「まだ」  足を開き、卑猥に息継ぎする入り口を自ら広げてさらす。恥ずかしくて消えたくなるような痴態だけれど……構わない。 「ここに、ヤンをくれなきゃ、だめ」  ごくり、と色っぽく彼の喉が動き、唾液を飲むのが確かに見えた。だが、彼は動かない。動かずに、暖炉の炎にぬらりと光沢を放つ、自らの左腕をさする。 「シリル、でも」 「聞かない」  素肌と素肌を合わせて初めて気がついた。彼の体からは木の香りと汗の香りともうひとつ、香るものがあった。生臭い苔むした池の端のような香り……多分、異形の、香り。  そんな異形がこれ以上触れていいのかとこの人はまだ言いたいのだ。  さらになにか言おうとする彼の手を、シリルは無理やり引き寄せた。手の甲の鱗に躊躇わず舌を這わせ、吐息交じりにねだる。 「早く」  彼の唇がわななく。一度強く噛みしめた直後、ぐいっと膝頭に両手がかけられた。先走りに濡れ、切なく尖る先端を押し当てられ、期待に息を乱すと、いいのか? とまた囁かれた。 「俺はもう、人じゃ」  彼が全部を言う前に無理やり彼を抱き寄せる。ぐいと腰を浮かせ、自ら彼自身を中へ誘い込む。幾分まだ狭いその場所が容赦なく広げられて軋み、身をよじったが、それよりも自分の内側を押し返してくれる彼の熱さが愛おしくてたまらなかった。 「ヤ、ン、好き」  彼を身に収めたまま上ずった声で告げる。うん、と小さく応えが返ってくる。それでも止められない。 「好き」 「うん」 「好き、大好き」 「うん。でも、あんまりそれ、言わないで」 「なん、で」 「止められなくなっちゃうから」  熱っぽい声で囁かれた瞬間、くらっとした。と同時に中を勢いよく突かれた。いきなりすぎて意識が飛びそうになったが、反対に今度は抜けそうなほど強く腰を引かれる。でも抜かれはしない。彼の全部を使って、入り口から奥までゆったり何度もこすり上げられ始めた。 「んぁっ……あ、あ、あっ……」  体中の血液が快楽物質しか運ばなくなったみたいに、どこもかしこも感じてしまう。体の内からも外からも体を苛む心地よさをもっと味わいたくて、彼の背中に指を食い込ませると、欲望に堕ちた荒々しい吐息が耳を穢した。 「たまんない……すごく、いい……お前、は、どう……?」 「い、いっ……やっ……やっ……あ、ああっ」  肩甲骨が際立つ凛々しい背中。その背中に今、汗はなく、代わりのように鱗が光る。広がり続ける銀色が悲しくて、でも……離したくなくて必死に彼の体に体を押しつける。 「はっ……あっ、あっ……あああっ……」  いつまでこうしていられるのだろう。こんなに愛しているのに。こんなにあなたを感じているのに。どうしてあなたの人としての時間は終わってしまうのだろう。  たまらず零れだしてしまった涙をヤンの舌が舐めとってくれる。悲しいのに、つらいのに、でも、この人が与えてくれる、心にまで浸潤する熱情に溺れたくて、この人を溺れさせたくて、もっと、もっと、体を開きたくなる。  なにも考えずに済むように、もっと。 「ヤン、もっと来てっ、もっと……」 「もっ、とって、こう?」 「んっ、あ……そっ、そこ……して、触ってっ……もっとっ……もっとっ……お願いっ」  永遠がほしかった。でもそんなものはどこにもないのだ。どれほど望んでも終わりはくる。わかっていても、今はそれを認めたくなんてなかった。  だから、終わりの予感にひび割れる心を押し殺し、幾度も幾度もせがんだ。それに応えるように、恋心が凝縮して熱くさざめく内側に、彼は彼自身で繰り返し触れてくれた。 「シリル」  もう何度、高みに押し上げられただろう。限界が近くて息も絶え絶えになりながら見上げると、霞んだ視界の中でヤンが微笑んでいた。 「出会ってくれて、ありがとうな」 「そ、んな、こと、あ、あっ……んんっ……」  そんなこと言われていいわけない。激しく首を振るが、全部押し込めるように唇が塞がれた。深すぎる口づけに感じて内側はなおもうねり、彼の芯をきつく抱く。突かれすぎて我慢できず、シリルが再び放出したとき、内側で彼の中心も大きくわなないた。 「く……」  喜びと切なさに彩られた彼の声とともに、どぷりと熱い奔流がシリルの中を満たす。  ……この熱湯に焼かれて死にたい。  気絶するように彼の腕の中へと落ちながら本気でそう願った。

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