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第52話 「俺のために約束、守って」
「……それでも俺は仇を取らないといけない」
「俺が死なないでくれって言っても?」
短剣が床に置かれる音がことん、と硬く響いた。その音に連動するように心が大きく揺さぶられる。こらえようとしたけれど体が震えた。
「そんな言い方、ずるい」
「ずるいって。お前、可愛すぎだろ」
唇の端だけ上げるようにして笑った彼が腕を伸ばす。元通り引っ張られて腕の中へ収納されたが、安穏と温もりに甘えてなんていたくなかった。
「放して。やらないとなんのために俺がいるのかわからない」
「お前は魔術師だよ。暗殺者じゃない。魔術師だったら魔術師としての義務を果たしな」
「義務って……」
「俺の望みを叶える義務」
なあ、シリル、と彼が耳元で言う。ほのかに香る異形の香りに胸が詰まる。それは死の香りなのかもしれなかった。
「約束しただろ。復讐のためじゃなく、妹と会うために古術を使うって。それ守ってくれない? 俺のために」
「いやだ! そんなことしたら」
あなたから人である時間をあっという間に奪ってしまう。
吐き出しそうになった言葉を呑み込みうなだれる。そのシリルの前髪をさらっと彼が右手で梳く。雨に濡れた子犬をいたわるみたいな手つきだった。
「前に言ったよな。古術なんてろくでもないものだって。でも妹さんが蘇れば少なくともお前は笑える。俺はね、お前の笑顔見るためなら人を捨てることなんてどうってことないよ」
そんなわけない、とまた言いたくなった。でもヤンの手は止まらない。髪に触れる手はしなやかなのに、その意志は固くシリルの前に立ち塞がる。
たまらずに彼の首に腕を回してしがみついた。なんで、と涙声も漏れてしまった。そのシリルの後ろ髪を、彼は優しい手つきで撫で続ける。そうしながら、いつもの声で言った。
「お前と王都行くの楽しみ。案内してな」
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