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第56話 「どっち?」
扉の奥に隠された階段を下ると、湿った岩壁が連なる地下道があった。平坦だと思っていたその道はやがて上り坂となり、いずこかへと繋がる上り階段へと繋がる。慣れた足取りで進むジェラールの後ろについて歩きながらシリルは驚きを隠せずにいた。
ジェラールの隠れ家のひとつであるこの場所には何度も来ていたはずなのに、まさか地下にこんな通路があるなんて思いもよらなかった。
しかし本当に驚いたのは、通路を抜けた先、見上げるほど大きな両開きの扉に刻まれた紋章を目にしたときだった。
「待って……ここ、宮廷……」
扉に刻まれたのは、銀色の竜。それは忘れられるはずもない、王家の紋章だった。
シリルの声を無視し、ジェラールは扉を押し開ける。扉の向こうには地下道とはうって変わって光が溢れていた。眩い日差しが脳天から降り注いでくる。白光に目を細めた先で青い空が煌めく。耳を打つのは風の音と鳥の囀り。
高い壁にぐるりと囲まれてはいる。だが、そこだけぽかりと丸く切り取られたように空が臨める広間と思しきそこでシリルは呆然とする。そのシリルの腕を不意にヤンが強く掴んだ。彼のほうへ首を巡らせると、すっと指が伸ばされる。
広間の中央で……赤い衣が翻っていた。
「アリス……?」
銀色の髪がさらりとたなびく。見つめるシリルの前でアリスが顎を引くように頷いた。走り寄ろうとしてシリルは足を止めた。
足元に巨大な陣が描かれていた。
複雑に絡みあった葉脈のようなその模様に見覚えがあった。
「これ、蘇生の陣……」
ヤンが渡してくれたものと同じものが、そこにはなぜか描かれていた。
「お兄ちゃん」
アリスの声がまっすぐにこちらへと投げられる。細い腕を伸ばすと袖口の広い服から細い手首が覗いた。誘うようにその手が手招く。彼女の体を通し、背後の柱がうっすら透けて見える。彼女を象る輪郭が風にあおられ、ゆらゆらとそよいだ。
「蘇らせて」
やはりこの子に肉体はない。はっきりとわかったとたん、妹を失ったあのとき感じた痛みが胸の奥に再生された。ふらついたシリルの肩をヤンが背後から支える。その彼の顔を見上げると、今度は迷いが胸の奥で首をもたげた。
……アリスを生き返らせる術を使ったら……ヤンはどうなる?
彼の左手で銀色が陽光を受けてぎらりと輝いた。
「お兄ちゃんの目的は全部をなかったことにすることでしょう?」
シリルの迷いを断ち切るような正確さで言葉が投げ込まれる。ゆるゆると頷くシリルからアリスはすうっと視線を転じた。
「その人と私と、ずっと一緒にいたのは、どっち?」
「それ、は……」
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