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第59話 「ああなった後、俺はどうなる?」

「ノーム。お兄ちゃんも知ってるでしょう? 地殻を司る竜のこと。ノームの力さえあれば、大地の慟哭を鎮められる。そして、この陣はそのノームを作り出すためのもの」  アリスの爪先が陣を再び蹴る。 「これ、蘇生の陣じゃないのよ。闇の刻印、いいえ、異形の因子を遺伝子に持つ闇魔術師(オブスキュリティ)を異形から完全なるノームへと変化させるためのものなの」 「は……?」  今、妹はなんと言ったのだろう。混乱し髪を掻き回す。ノーム? もちろん知ってはいた。ただそれは伝説の生き物のはずだ。  荒れ狂う大地を鎮める幻の神獣。ときには人を諭すためあえて暴れることもあると言われている、神に限りなく近いもの。  それが人から生み出されている? 「あり得ない、そんな……」 「そうね。そう思うのも無理はないと思う。闇魔術師にもこの陣は蘇生の陣としてだけ言い伝えられているもの。でも多分、彼は理解しているんじゃないかな」  そう言うアリスの目はヤンを射抜いている。え、と振り向いたシリルをヤンの黄金色へと変貌を遂げた目が映した。半ば鱗に浸食された唇がくっと歪んだ。 「夢をさ、見てた。この姿になり始めてから」 「夢?」 「この大陸がな、壊れていくんだよ。この宮廷も市街地も。お前と過ごした山小屋も」 「ヤ、ン?」 「大地が裂けて飲み込まれる場所もあった。山が崩れて地滑りですべて埋められる場所もあった。見上げるほどの高さの波にさらわれて海の彼方へ連れ去られていく人もいた。俺はさ、それを空から見てるんだ。ずっと」  言いながらヤンが両手で耳を覆う。彼の耳には今まさに、夢の中の声が聞こえているのかもしれない。それくらい苦しげに彼は耳を塞ぎ、激しくかぶりを振った。 「毎晩毎晩、見てた。目が覚めても耳の中に残ってるんだ。悲鳴が。お前が助けてくれたマリー、あの子もな、土砂の生き埋めになったんだよ。どうしてこんな夢を見るのかわからなくて苦しくて。でも、夢にはもう一個出てきたものがあって。それが竜だった」  ふっとヤンが顔を上げる。まっすぐにこちらを見据える黒と黄金の瞳をシリルは息を詰めて見つめる。 「銀色の竜が空を駆けると地面は沈黙した。覆いかぶさろうとする波もすべて海へと巻き取られていった。竜が一声鳴くことで刻まれてしまったひび割れも埋まっていく。それが本当に救いで……。でも、あれが、俺? なあ、教皇さん」  くしゃりと髪を搔き上げながらヤンがアリスを睨む。アリスは無言でヤンの視線を受け止める。 「ああなった後、俺はどうなる?」

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