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第63話 ――シリル、ずっと、愛してる。

 掠れた声を零すと、うん? と穏やかに問いかけられる。その彼の腕をシリルはもう一度強く握る。 「この腕、離したくないのに。世界なんてどうでもいいって……言いたいのに……」 「うん」  ヤンの声は優しく耳朶に沁みこむ。その声でこの人には、胸の内の決断が伝わっているとわかった。 「ごめん。ヤン……ごめん。俺っ……」 「馬鹿だな」  降り注ぐ光の中で彼は笑っていた。これまでで一番穏やかで光に溶けてしまいそうな温もりに満ちた顔だった。 「それでこそ俺が好きになった癒しの天使だ」  どん、と突き上げられるように地面が震える。 「お兄ちゃん!」  叫ぶ妹に頷いてみせてから、揺れから守るように支えてくれていた彼を見上げる。こくり、とヤンも首肯した。  揺れに足を取られつつ、ヤンはひとり、陣の中央へと進む。その彼の顔を見つめながら思う。  ああ、今飛びついてやっぱり嫌だ、と泣けたら、と。  でもそのシリルの想いをすべて読み取ったみたいな目で彼は笑う。  そんなふうに笑われたら、なにも言えなくなるのに。  床に広がる陣。それを脳内に刻む。常ならば檻のように術式をイメージするけれど、檻だなんて思いたくなかった。  少しでも温かいように。少しでも、優しいように。  願いながら組んだ陣がゆっくりと現実でも形を刻んでいく。光の糸となって彼を包む。  つうっと自分の頬を雫が伝っていく。まだ人としての色を持つ彼の右目からも涙が零れだすのが見えた。落ちていくそれは顎を伝い、はらり、と中空へ散る。その雫に手を伸ばしたくなった。が、それを咎めるように、どん、と床が突き上げられる。獰猛な巨人の拳によって内側から殴打されたみたいに、ひび割れていく。  でも……彼だけはよろめかず立ち続けていた。徐々に濃くなっていく光の繭に覆い隠されそうになりながらも、微笑み続けてくれていた。  ああ、ヤンは笑っている。だから、泣いちゃ、だめだ。  必死に笑顔を作ったとき、彼の唇がふと動いた。  崩壊の音に阻まれて、声なんて届くはずはない。けれど彼の最後の囁きは確かに耳を震わせた。  この数か月、誰よりも近くにあってくれた彼の声が、耳元でしっかりと想いを伝えてくれた。  ――シリル、ずっと、愛してる。

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