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第65話 ジェラール
「殺したいなら殺していいぞ」
低い声に顔を上げると、ジェラールが傍らに立っていた。今も振動し続ける地面にありながらも師の足はしっかと床を踏んだままだ。
「アリスもお前の愛する人間も失うことになった。その原因を作ったのは私だ。アリスが処刑されるように王と謀り、手引きした。お前には私を殺す権利がある」
「馬鹿じゃないの」
誰かを殺して誰かが戻るなら喜んでそうする。けれどそんなことではなにも戻らない。それを自分は嫌と言うほど知ってしまった。
おおおおおお……!
遠く声が聞こえた。大地そのもののように確かで、大気を震わせるそれに胸が、とくり、と鳴く。
「俺がやりたいことはそんなことじゃない」
石材を裂く鈍い音を立てて柱に無数の亀裂が走る。風が渦を巻く。その風に向かって腕を差し出す。ふわりと体になじむ光魔術の気配に安堵の息を吐き、シリルは手の中にあったアリスの耳飾りを左耳へ着ける。
「ジェラール」
この人は……縁もゆかりもない子どもであった自分に、生きる術になるからと魔術を教えてくれるようなそんな優しい人。
そんな優しい人にとってもこの数年は苦しかったはずだ。それでもこの人はこの道を進んだ。おそらくは今、空を駆ける彼と同じ思いで。そしてこの人がいたからこそ、今、自分もこの選択ができている。
「俺に魔術を教えてくれて、ありがとう」
だからそれだけ言って背中を向けた。空へと浮かび上がり足元を見下ろすと、眩しげに目を細めた師の姿が見えた。
なんだか懐かしくて、子どものころみたいに手を振る。すると、彼の顔が崩れた。しわの多い顔がますますしわに覆われるのを見たら、目頭が熱くなった。でも泣き顔は見せたくなくて、笑顔を作った。
雲一つなく晴れた空の彼方を銀色の竜が行く。その彼に向かってシリルは飛んだ。
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