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第67話 「お願い、信じて」
投げ込まれた声に、背筋が凍るのがわかった。同時に周囲の空気がざわっとひりつく。
「そういえば、あの髪の色……嘘だろ」
「そんなやつの言うこと聞いていいのか?」
まとわりつく静電気みたく、声の波が毛羽立っていく。その感触には覚えがあった。
――死刑にしろ!
――反逆者は殺せ!
――殺せ!
あのときと同じものだ。あのとき、アリスが広場の中央へ引き出されたあのときと。
高揚していたはずの心が冷水に突き落とされたように強張った。
「罪人の兄貴だろ。嘘を言っているかもしれない」
……こんなやつらを、守る?
視界が揺れる。握り締め過ぎて爪が掌を傷つけ、鈍い痛みを覚える。閉じ込めていた憎しみが、痛みに触発されて這い出してくる。
……自分の目ではなく、与えられたものばかりを見て、他者を踏みにじるようなこんなやつらを守るために、俺はヤンを人ならざる者にしたのか?
鎮めたはずの黒い炎が心の内側でじわりと首をもたげる……。
――シリル。
だが、その自分の意識の中に不意に光を灯ししたのは声だった。
あの人の愛おしい、声、だった。
――いいんだよ。俺が馬鹿だったってだけ。気にするな。
恩とか憧れとか、愛とか好きとか。どんな理由があったとしても自分の体を賭けていい理由なんてない。
でも彼は進んでその道を選んだのだ。したいと願ったから。
じゃあ、自分は? 自分が今、したいことはなんだろう。復讐はもう意味をなさない。妹は自らの意志で火刑台に上がったのだから。でも、だからと言って許されていいのか? 今、ここにいる民によって石は投げられた。その事実は決して消えるものではない。
死んでしまえ。
死んでしまえ。
死んでしまえ……。
そう叫びたい。手を放してしまいたい。でも。
思い出すのは、川に落ちたマリーを助けたあのときだった。輝くばかりの笑顔で手を振ったあの子の姿が瞼の裏から心をくすぐってくる。
あの瞬間、はっきりと心が動いてしまったのだ。助けられてよかったと。あの感情を忘れられなかったから……自分はこの道を選び、彼を竜に変えた。
ああ、と呻き声が漏れる。苦しい。苦しくてたまらない。全部投げ捨ててしまいたい。
でもしない。しないと、決めたのだ。
「お願い、信じて」
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