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第13話 欠陥

 その日は、アムスクにあるオーウェンの拠点で夜をすごすことになった。  繁華街のメインストリートから一本入った場所にあるマンションで、一見するとホテルのようでもあった。  五階にあるオーウェンの部屋は、綺麗に片付けられているがどこか生活感がなく、書斎にある本棚にびっしりと詰まった大量の本と、その隣のキャビネットに並ぶいくつかのカメラだけが、家主の人柄を物語っているようだった。 「リモコンのこのボタンを押すと有料配信サービスを開けるようになってるから、映画とかドラマとか、いろいろ見られるよ。暇だったら適当に見てて。夕飯はこれ。一人で全部食べちゃっていいから。悪いけど、僕は帰りが遅くなると思うから、先に寝てて。寝室はそっち。お風呂の使い方は……」  帰ってくるなりエスにあわただしくいろいろと説明すると、オーウェンは着替え始めた。  休暇を与えると言いながらもクロードはオーウェンに、今日のパーティに出るよう指示していたためだ。  エスは、どこにハウンドファングがひそんでいるのかわからないため、今回に関しては留守番を言い渡された。  クローゼットのある寝室から出てきたオーウェンは、完璧な正装をしていた。  ジャケットは近くでよく見ると、生地に細かい模様が入っている。グレーのシャツと青いネクタイもよく似合っていて、オーウェンらしい気品を引き立てていた。 「かっこいいな」  率直な感想をもらすと、クロードの執務室にいた時からずっとピリついていたオーウェンの雰囲気が、少しやわらいだように見えた。 「ありがとう。エスにも今度仕立ててあげるよ」 「オレにはきっと似合わない」 「そんなことないよ。似合うのを、僕が選ぶから」  玄関の内側で挨拶を交わすと、「誰かきても、絶対にあけないでね」と言い残してオーウェンは出かけていった。  空腹感は特になかったが、他にやることもなかったので、帰り道の途中で買ってきたピザとチキンをあけることにした。  兄がせっかく教えてくれたのだから、と思い、ついでにテレビの電源を入れて、有料配信サービスとやらの画面も開いてみる。  タイトルが多すぎてどれを選んでいいのかわからなかったので、適当に、新着映画一覧の一番端にあったタイトルを選んで押した。  あの湖畔に建つ古い洋館にテレビはなかったので、テレビを見るのはずいぶん久しぶりだ。グラノールに住んでいた時以来だろう。  あの地域ではまだ、土曜日の朝八時からアニメを放送しているのだろうか。自分が見ていたあのアニメの続きは、どうなったんだろうか。  とりとめのない疑問が浮かんでは消えていく。  チキンは三日前の夕食で出てきたけど、ピザを食べるのも、炭酸ジュースを飲むのも、十二年ぶりだ。  久しぶりにまともな人間に戻ったような、不思議な感覚があった。  ピザは三人前くらいのサイズで、長いこと小食に慣れてきたエスには多かったが、ゆっくりと時間をかけて噛めば、全部食べられないこともなかった。  兄は『一人で全部食べていい』と言っていたし、正直なところ、残したあとにどう保存していいのかわからなかったのである。  食べながら、ぼんやりと映画を眺めていた。  とある遺跡の秘宝をめぐる、ミステリーとアクション活劇がまざったような内容だった。ロマンス要素まである。  主人公の、顔の濃い男とグラマラスなヒロインのベッドシーンが挟まれていたりもした。  昔、家で映画を見ていた際のこういうシーンが流れた時は、父が急に不自然な咳払いをしていたことを思い出す。  あの頃は、大人がなぜそんな気まずそうにしているのかわからなかった。  今なら少し意味がわかる。女を部屋に連れ込んでいる最中の男を殺したことなど何度もあるし、性行為が大人の嗜みであると理解している。  ただ、エス自身にそういったことをしたいという欲求はなく、自分には一生無縁なことだと思っていた。  ハウンドファングはもれなく全員、あらゆる欲求を排除するように教育されてきたから、おそらくその影響だろう。  だから、画面の中で、男と女の肌が絡みつく映像が出てきても、特になんの感情も情動もわきあがってこなかった。  しかし、舌を絡め合うような濃厚なキスを交わしながら愛を囁き合う男女をぼんやり眺めているうち、『これは恋人同士がする行為なんだな』ということに気づいた。  愛は囁いていないが、同じぐらい濃厚なキスを、数日前に兄と交わした。  戦いの名残で気分が昂ぶっていたと兄は言っていたから、『そういうものか』となんとなく納得していたが、兄弟なら当たり前にするものなのかというと、なにか違う気がする。  自分の知識の範囲があまりにも狭いので判断がつかないが、少なくとも現実でもフィクションの世界でも、兄弟間で軽い挨拶以外のキスをしているところは見たことがないと、今さら思い当たる。  ――だから、この間、寝る前にオレからキスした時、兄さんが妙な反応をしていたのか。  だめじゃない、とは言われたが、正しいことでもなかったのだろう。いや、あるいは、エスの腹のうちでも探ろうとしていたのか。  まとまらない考えをめぐらせているうちに、テレビの方ではいつの間にかベッドシーンが終わって、激しい銃撃戦が始まっていた。  手が止まっている間に冷めたピザが、まだ箱の中に二切れほど残っている。 「…………」  とりあえず、映画の主人公を真似て、キッチンに行きラップをかけ、冷蔵庫にしまってみた。  こんな単純なことも、見よう見まねでないとできない、犬並みの人間に成り下がっていたのだと思い知らされた。  風呂には入ったが、眠る気にはなれなくてソファに寝転がっていたら、日付が更新されていた。  オーウェンはまだ帰ってこない。  迎えにいくべきだろうか。会場の場所は、オーウェンとクロードの会話を聞いていて知っている。でも、外に出てはいけないと言われたな。  またとりとめのないことを考えながら天井をひたすら眺めて、ようやくうとうとしてきたところで、玄関の施錠が解除される音が聞こえてきた。 「……あれ? まだ寝てなかったの?」  電気がついていることに気づいてか、オーウェンはまっすぐにリビングにやってきた。 「ああ……待ってた。よかった、無事に帰ってきて」 「可愛い弟が家にいるんだから、ちゃんと帰ってくるよ」  ソファから起き上がった弟の頭を撫でてくる手に、何気なく自分の手を重ねる。  家を出た時より、オーウェンの髪は若干乱れているように見えた。  それに、アルコールの匂いがする。 「飲んできたのか?」 「うん、付き合いで、少しね」  酒を飲む兄を、自分は知らない。長いこと離れていたのだから当たり前だ。 「兄さんは、酒に酔ったりするのか?」 「まさか。酔わないよう、訓練を受けているからね。多少体温が上昇することはあっても、酔って機嫌が変わったり自我を見失うようなことは一切ないよ」  確かに、いくらか疲れているように見えるが、見た目に大きな変化はない。  白い頬に触れてみる。ほんのりと、いつもより熱い気はした。  体温を測るなら、口の中の温度を確かめるのが一番わかりやすい。  なんの気なしに、エスはオーウェンの口の中に親指を突っ込んでいた。 「うん、熱いな」  特に意味はない。純粋な好奇心だった。  オーウェンは、嫌がるそぶりは見せなかったが、いつもとは違う表情で弟の顔をじっと見つめていた。 「……誘ってる?」 「? なんの話だ?」 「ごめん……変なこと言った。気にしないで」  自分の発言を後悔したように、視線がはずされて、やんわりとエスの手も外された。 「……こういうことか?」  ワンテンポ後れて意味を察したエスが指先だけでそっと兄の腰のあたりを撫でたのは、完全に、さっき見た映画の真似だった。 「……っ、意味、わかってやってるの?」  苛立ちまじりの表情が見下ろしてくる。  兄が、他人に対してこういう表情を向けるのは見たことがあるが、エスに対して向けたことは今まで一度もない。  兄を怒らせてしまった時の対処法を、エスは知らない。 「意味はわかる。冗談のつもりはない。不快な思いをさせたのなら申し訳ない。もう二度としない」  手はとっくに離していた。 「先に寝ていろと言われたのに言いつけを守らなかったのも、悪かった。もう寝る。それでいいか?」  疲れている兄に、無駄な時間を取らせるのも申し訳ない。さっさと言われたことを守ろうとエスが立ち上がると「待って」と肩を掴まれる。 「シャワー浴びてくるから、起きて待ってて。少し、話がしたい。眠いなら、早めに終わらせるから……いい?」 「わかった」  兄のスーツからは、アルコールの匂いだけでなく、ほんのりと香水と煙草の匂いがした。  兄のものではない。おそらく、ついさっきまで一緒にいた誰かのものだろう。  それを消すためにシャワーを浴びたいのだと、エスは察した。  寝室の方で待っているように言われたから、今度はベッドに寝転がって天井を眺めていた。  ベッドの方が、慣れ親しんだ兄の匂いしかしなかったので、少しだけほっとする。 「ごめん……もう眠いよね?」  一切身じろぎせずにじっと寝転がっているエスを、兄が覗き込んでくる。 「大丈夫だ」  予想よりもくるのが早いと思ったら、オーウェンの髪は濡れたままだった。  濡れて少し色を濃くした金髪の先から、雫がしたたり落ちている。  肩にバスタオルがかかったままだったので、起き上がったエスは、そのタオルで頭を拭いてやった。 「……ありがとう。いつもの逆だね」  本当だ。いつも、兄に頭を拭いてもらうのは、自分の方だった。 「そんなに急いで上がってこなくても、勝手に先に寝たりしない」 「そうだね。きみはそういう子だから、急いできた」  タオルを外すと、オーウェンの頭はくしゃくしゃになっていた。ブラシは手近になさそうだったので、とりあえず、手で梳いて撫でつける。  少しくすぐったそうに、オーウェンはエスの手を受け入れていた。 「……さっきは、ごめん。僕の方が先に変なことを言い出したのに、勝手に怒ったりして」 「いや、先に変なことをしたのはオレの方だ。悪かった。意味はない。出来心だ。……オレには『普通』というものがよくわからない。間違っていたら教えてくれ」 「……きみは、いつも僕が正しいことをしていると思っている?」  湿ったタオルは、傍らに置かれた。 「いや……すべてが正しいとは思わない。でも、仮にもし他のやつから見たら間違っていると思われる選択を兄さんがしたとしても、それには兄さんなりのきちんとした理由があるからだろう。オレは、兄さんが自分で考えて選んだことなら、どんなことでも肯定したいと思っている」  飾り気のない率直な思いを堅苦しい言葉に変えながら、エスは、兄がいない間に考えていたことのいくつかを思い返していた。 「……あれは、恋人のキスだったんだな。あれにはどういう意味がある? 意味があるなら、教えてくれ」  抑揚のない声で、エスは静かに問う。  頭を傾けたせいで目元にかかった濡れた金髪の隙間から、ブルーグレーの瞳が射貫くようにこちらを見てきた。 「……誤解のないように先に言っておくけど、僕にとって、きみは本来、性愛の対象じゃない。かわいくて……慈しむべき、大事な弟だ」  慎重に言葉を選ぶように、今は少し冷たく響く声が語りかけてきた。 「そうか」  ごく当たり前のことを言われたので、エスは表情を変えずに相槌を打つ。 かわいい弟と言われただけで、エスにとってはじゅうぶんなのである。 「兄さんに恋人はいるのか?」  これは、映画を見ながらふと考えたことだ。 「気になる?」 「一応」 「いるように見える?」 「兄さんはとても魅力的だから、兄さんに惚れる人間なら、いくらでもいるだろう」 「そうじゃないよ。僕が、きみの知らない誰かに惚れているように見える?」  想像してみた。映画の中の恋人同士のように、誰かと手を繋いで楽しげに街を歩く兄の姿を。 「わからない」  いたら、とっくに紹介されている気がするが、今のところそれらしい人物に会わされたことはないし、名前も聞かないので、判断に困る。 「……いないよ。僕はね、弟以外の人間に、興味がないんだ」  目線をはずし、宙を見上げながら、独り言のようにオーウェンは呟いた。 「きみは僕にとって、弟以外の何者でもなくて、恋人にしたいと思ったことなんて一度もないけど、きみが隣にいると、触れたくなる。普通の兄弟なら越えないような一線を、越えてしまいそうになる。そんな自分が、僕はすごく嫌なんだ。だから、こんな僕まで、肯定しなくていい。嫌なら嫌だと、ハッキリ言ってくれ」 「……オレと、兄弟でなくなるのが嫌だという意味か?」 「そうだね……嫌だ。絶対に嫌だ。キスはしたいし、なんなら、セックスだってやろうと思えばできるけど、エスと兄弟でなくなるのだけは嫌だ」  寝転がって、ずいぶんと矛盾した言い分を振りかざすオーウェンは、いつもよりも子供じみているように見えた。もしかして、アルコールのせいだろうか。 「オレは、キスは嫌じゃない。セックスは……多分、身体機能的にできないから、選択肢に入れなくてもいいと思う」 「……切り落とされてはいなかったよね?」 「性欲というものがないんだ。昔からずっと。一度も性器の形状が変わったこともないから、使えないということだろう」 「ああ……そういうこと」  寝転がったまま、こちらを向いたオーウェンの手が、おもむろに股間に伸ばされてくる。  正常な男なら、触られると硬くなるものだ。その程度の知識ならある。 「……ほんとだ。反応しないね」  撫でてくる指つきは巧みで、おそらくいやらしい触り方なんだろうということはわかったが、エスにとってはくすぐったいだけだった。 「マインドコントロールや記憶操作に使われていた薬に、ホルモン抑制の効果もあったのかな……? 彼らにとっては、犬を去勢するのと同じような感覚だったのかもしれないね」  冷静に呟きながらも、むくりと体を起こしたオーウェンは、あからさまに不快そうな表情になっている。 「ひどいね。欲望も快楽も取り上げて、餌がなくても言うことをきく犬を育てて、支配者を気取っていたなんて」  声は落ち着いたが、殺気がにじみ出ている。 「僕の弟にそんなことをしていたなんて、絶対に許せない」  膝の上に乗り上げてきたオーウェンが、耳の裏側を舐めてくる。 「兄さん……?」 「気が変わった。気持ちいいこと、教えてあげるよ。きみはもっと、普通の人間にとっては当たり前の幸福を知るべきだ」  いつもは静かなブルーグレーの瞳に、燃え立つような感情が煮え滾っているのを間近で目の当たりにした。  憤りと欲望が絡み合ったような、複雑な色合いだ。 「オレは別に、不都合を感じたことは一度もないんだが……」  少しでも兄の気分を落ち着けさせようと口にした言葉は、逆に火に油をそそぐこととなった。 「そう。じゃあやめとく? 僕が相手なのが嫌だというなら、女の子を用意してあげた方がいいかな?」  真上から、覗き込むように顔を近づけられながら、優しげな声で囁かれる。  魔性的な誘惑であったが、生憎と、耐性のあるエスにはあまり効果的ではなかった。 「……どうして、兄さんにとって不本意なことを、わざわざオレに勧めてくるんだ」  当てつけじみた言葉であることは、エスにはすぐにわかった。 「オレが知りたいのは、兄さんがなにをしたいのかということと、兄さんが何を考えているのかということだけだ。兄としての立場がどうとか、世間一般の兄弟にとってなにが当たり前かとかは、どうでもいい。あんたが望んだことなら、なんでも受け入れる。……なにがあっても、『もういらない』と言われるまではそばにいるから、あんたはもっと、オレのためじゃなくて、あんた自身のために動いてくれ」 「…………」  言葉にならない思いを伝えようとするかのように、唇が重なってくる。  これは、愛しいという感情を伝えるための行為だ。  前回はわからなかったが、今ならわかる。  だから、想いに応えるため、今度はエスも積極的に求めた。  湿り気を帯びた金髪に指を絡めて引き寄せ、何度も吸いつく。  舌を入れたら、オーウェンは少し驚いた様子だったが、やがて甘えるようにしなだれかかってきた。  かっこいいだとか綺麗だとかはいつもオーウェンに対して思っているけど、可愛いという感情をここまで強く抱いたのははじめてかもしれない。  咥内はやっぱりこの間触れた時よりも熱くて、アルコールの名残がある息に、こっちの方が酔いそうになる。  誰と飲んで、どんな話をしていたのだろう。実は、ずっと気になっている。でもそこは自分が立ち入っていい領域なのかわからなくて、聞けずにいる。  何度も執拗に唇を合わせているうちに無意識に腰を抱き寄せていて、ふと、あることに気づいた。 「……兄さんは、性機能は正常なままなんだよな?」  潤んで、とろんとした目が見下ろしてきた。 「……触ってみる?」  おそるおそる、下腹部に手を伸ばす。  服越しだったが、かたちを変えているのがわかった。 「ん……」 「どうなっているんだ?」  自分はもちろん、誰かのそういう状態をまともに直視したことがなかったので、純粋な好奇心だった。 「直接触っていいよ」  手を掴まれて、服の中に導かれる。 「……硬い」 「そうだね」  他の部分の皮膚とは違う感触がした。  形状を確かめるために根元から先端にまで手を這わせると、オーウェンは息を乱して、眉根を寄せている。 「悪い。痛かったか?」 「痛くない……きもちいいよ」 「普通の男は、触ったらこうなるものなのか?」 「だいたいはね。今は、触られる前からこうなってたけど……」 「それはどうしてだ?」 「キスが気持ちよかったからだよ。……わからない?」  ちゅっと軽く啄むようなキスをされる。 「キスが気持ちいいのはわかる」 「そう……よかった」  なんとなく掴んだままでいると、オーウェンはもどかしそうに腰をうねらせている。  擦ったりした方がいいのかと思ってぎこちなくも手を動かすと、明らかに反応が変わった。 「……ぁ、う……ぁ……」  か細い吐息が震えるのを聞いていると、なんだかこちらまでたまらない気持ちになってくる。 「……兄さんは、セックスの経験はあるのか?」  オーウェンは嫌そうに顔を歪めた。 「…………仕事でね、それなりに経験はあるよ」 「仕事?」 「相手から情報を引き出したり、交渉をうまく進めるために、夜の相手をしてあげた方が円滑に事が進む場合もあるんだよ」 「そんな仕事までやらされているのか」 「まあね。別に、強要されたわけじゃないけど……手段を選んでいられない場合もあったから」 「……恋人とした経験は?」 「恋人は今も昔も、一度もいないよ」  さっきの質問にはしぶしぶ答えた様子だったが、今度はキッパリと断言された。 「こんなに魅力的なのに……?」 「ふふ」  もう一度、キスされる。今度は深く。 「ねぇ、エスのも触ってもいい?」 「触ってもなにも起きないと思うが」 「それでもいいよ。……脱いで」  言われた通り下を脱ぐと、「上も」と言われる。  オーウェンも脱ぎ始めて、二人とも全裸の状態になった。 「使えなくしてあるというわりに、サイズ的にはちゃんと育ってるよね。これは遺伝上の性質かな?」  白い指が、エスの下肢に触れてきたかと思うとおもむろに舐められて、エスはぎょっとする。 「兄さん」 「一応ね、試せることは試してみようじゃないか」 「待ってくれ。洗ってくる」 「大丈夫。綺麗だよ」  先っぽを口に含まれて、吸いつかれる。  数時間前に風呂には入ったとはいえ、絶対に汚い、と思うのだが、オーウェンは気にせず、少しずつ深く咥えこんでくる。  感触がどうのというより、視覚の刺激が強く、なんだかとてもいけないことをしているような、いたたまれない心地になった。  慣れた様子であらゆる愛撫を咥えてくるオーウェンは、おそらくそれなりの手練れなのだろう。  この人が相手をしたことがあるというのは、男だろうか。女だろうか。それとも両方だろうか。  いつの間にか乾き始めた金髪に触れる指先に力がこもった。 「……ダメそうだね」  十五分ほどたっぷりと奉仕を受けたが、あまり効果はなかった。 「すまない」  兄にここまでさせたというのに、ただの徒労に終わったことが申し訳なく、エスは眉尻を下げる。 「エスが謝ることじゃないよ。……正直、この手はあまり使いたくなかったんだけど、仕方ないか」  独り言のように呟くと、オーウェンは自らの親指にいきなり噛みついた。  白い指先から、真っ赤な血が溢れ出してくる。 「なにを……」 「舐めて」 「え?」 「僕の血を飲んで。さぁ早く、傷が塞がる前に」  わけがわからないまま、エスは細い手首を掴んで、血がしたたり落ちる指先を口に含んでいた。

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