24 / 33

第24話 男

「兄さん、そろそろ寝ないのか?」 「うん……そうだね。ちょっと待ってて」  宿泊先の部屋に入ってから、風呂をすませ、ベッドの上にお菓子を並べて子供みたいにはしゃぎ、そのあとで明日の航空券を予約して、サザンクロシードにも連絡を入れて、パソコンのメールボックスに入っていた連絡をひととおり確認していたら、あっという間に深夜になっていた。  疲労感もあり、なんとなくぼんやりと窓際のイスに座り込んで外の景色を眺めていたところ、今日行ったテーマパークのガイドブックをなぜか今さらじっくりと読み込んでいたエスが声をかけてきた。  オーウェンの用事が終わるのを待っていて、手持ち無沙汰だったのはわかっている。  そろそろ寝かせてやった方がいいとは思っていたが、手招きして、小さな丸テーブルを挟んだ向かい側の席に座らせる。  予約が取れたのは、明日の午後の便だ。まだゆっくりする時間はあるが、トルネシアではこれが最後の夜になるだろう。 「ねぇ……アーサーがきみに言ったこと、まったく気にしてない?」  レストランで、弟の前で涙を見せてしまってから、どうにも調子が狂っている気がする。  つい、自分でも言いたくなかったはずのことをわざわざ口にしてしまった。 「エリクシアの話なら……」 「そっちじゃない」  途中で言葉を遮ると、エスは思案する様子とともに首を傾けた。 「あの男と寝た過去があるという話か?」  思っていたよりも直球の質問が返ってきた。 「……そう」 「恋人関係だったわけじゃないんだろう?」 「違う。それは断じてない。当時の北側は、あちこちで火種がくすぶっては炎上しての繰り返しで……まぁようするに、送り込まれた工作員ですら、ストレス含めいろいろ溜まるような状況だったんだよ。路上で女子供がレイプされていてもみんな見て見ぬふりするようなひどい環境だったし……。情報交換と引き換えに発散の手伝いをするとかは、よくあることだったんだよ」  アーサー・デューイは本来、女にしか興味がないタイプだ。どちらかというと、嫌がらせのためにそういう条件を出してきたと言った方が正しい。 「おもしろくはないが、そもそも兄さんがそんなことをしていた目的にオレのことが含まれているのなら……オレ個人としては、申し訳ないと言うより他にない。良いか悪いかは、オレが口出しできる範囲のものではないだろう」  確かに正論だ。エスも、聞かれても困るだろう。 「オレが許せないと思ったのは、あの男が『つまらない相手だった』と言ったことについてだ」  アーサーの首を締め上げた時、エスからは明確な殺意と煮え滾るような怒りを感じたが、今は静かに、淡々と言葉が吐き出される。 「……まぁ、向こうとしては、そもそもが好みの相手でもなかったわけだしね」  こちらとしても嫌いなタイプの相手だったので、いつも以上に演技が適当になってしまったのも事実だ。  よく考えたら、お互いに実に不毛な時間であった。正直、思い出したくもない。  ただ、その話を聞いてエスがなにを思うのかについては、大いに興味があった。 「兄さんはとても魅力的だ。触れることを許されたのに、あんなふうに侮辱するなんてどうかしている」  表情を変えぬまま、エスはさらりと言い放った。 「…………本当に、僕がつまらない相手なのかどうか、試してみる?」 「…………」  エスはなにも言わなかった。  自分がひどい失言をしたことに気づいて、オーウェンは掌で目元を覆う。 「ごめん。今のは……聞かなかったことにして」  下品で稚拙な誘い方だ。こんなのは、理想の兄の姿にはほど遠い。 「兄さん」  少し間を置いてから、落ち着いた声で呼びかけられた。  思いのほかその声が近くで響いたことに驚いて顔から手を外すと、エスはオーウェンが座る椅子の傍らに片膝をつくかたちで、エスがこちらを見上げていた。 「オレがあんたの男になれなかったとしても、オレのすべてはあんたのものだ。あんたのそばにいられるなら、どんな肩書きだってかまわない」  真剣すぎる眼差しが、まっすぐにこちらを射貫いてきている。  息が止まりそうな気持ちになりながら、オーウェンはその言葉を聞いていた。 「弟でも犬でも武器でも、好きなように呼んでくれ。あんたのためなら、なんだってする」  この、高潔なまでに真面目で純粋な弟に失望されるのが、何よりも怖かった。  彼の前では『理想の兄』であり続けたかった。そのための演技をしていた。ほんとは完璧でもなんでもないくせに、完璧を演じていた。  情動に突き動かされてキスなんかして、偉そうな理由をつけて欲望を暴いてみても、一線を越えるまでの決断ができなかったのは、そのためだ。  兄弟としての絆を壊したくなかったのは本当だ。 でも、それ以上に、みっともない自分の本性を暴かれそうで、怖くてたまらなかったのだ。 「肩書きとか、どうでもいいんだよ。僕はただ、きみのことが好きで、きみに触れたいだけなんだよ」  この感情を恋と呼べば、許されるのだろうか。  わからない。  でも、彼に『兄さん』と呼んでもらえなくなるのも、物凄く嫌だ。 「エス……」 「うん」  背中に腕が回されてきて、抱きしめられる。 「……きみは僕をどうしたい?」  肩のあたりで小さく、息を呑む気配があった。 「犯したい? 啼かせたい? それともただ、優しく頭を撫でてほしいだけ?」 「……それ以外の選択肢でもいいのか?」 「うん。なんでもいいよ。言って。きみになら、殺されたってかまわない」  あらゆる代償を捧げて、彼を手元に取り戻した。  でも、見返りとして自分の言いなりになってほしいと思ったことはない。  ただ、そばにいてほしかっただけだ。 「……殺すのは、嫌だな」 「だよね。ごめん、言い過ぎた」  自嘲気味に笑って、触り心地のいい灰色の髪に指を絡める。 「僕がきみをどうしても取り戻したかったのはね、ほんとは、きみのためだけじゃないよ。僕がただ、きみがそばにいないことに耐えられなかったからだ。自分勝手なわがままだよ。……僕はスーパーヒーローでもなければ、救世主でもない。……だからね、きみにだってわがままを言う権利はあるんだ」  恩義とか、そんなものは感じてほしくなかった。  義理もいらない。あらゆる理屈を引き剥がして、素のままの彼の心になにが残るのかが知りたかった。 「……オレは、兄さんを甘やかしたい」 「え?」 「オレが今まで兄さんに甘やかされてきたのと同じぐらい……いや、それ以上に、甘やかしたい」  相変わらず真面目な顔からは想像もつかない言葉がでてきて、オーウェンは面食らう。 「……なんで?」 「だって、今まであんた、そういう経験ないだろ? 多分」 「ないけど……」 「恩返しとか、そういうんじゃないんだ。ただ……」  抱きかかえられて、つま先が宙に浮く。  すぐに、近くにあったベッドにそっと下ろされた。 「兄さんを……オーウェンを、愛しているから」  それ以上の説明を求めるのも無粋だと思われるほどの、まっすぐで、単純な言葉だった。  組み敷くような格好でオーウェンを見下ろしながらもなお、紫の瞳には、欲情も欲望もなく、余計な感情が一切含まれていない綺麗な愛情が伝わってくる。 「……ふふ」  敵わないなぁ、と思った。  レストランで涙を見せてしまってから、兄としての矜持はすでに保ちきれなくなっていたが、今度こそ、どうにもならない決定打を打たれた気分だった。 「どうやって甘やかしてくれるの……?」  頬を撫で、続きを促す。  グレーの前髪が目蓋の上に落ちてくる。  それをくすぐったいと思っていたら、唇が重なってきた。  唇は少し冷たかった。  だけど、優しいキスだった。  求めるというより慈しむような。子供のような無邪気な愛情を感じさせる触れ方は、少しもどかしくもあったけど心地よかった。  キスをしながら、指と指を絡める。  お互いに、これまで数えきれないほどの人間を殺してきた手だ。  血は洗い流せても、こびりついた罪は消えない。その手で愛しいものに触れるのは、本当は怖い。 「オーウェン」  抑揚のない声だったが、低い声は耳に心地よく、どこか官能的にも聞こえた。  唇が、首筋に移動してきた。  相変わらず優しい仕草だったが、皮膚の薄い部分を吸われると、ゾクゾクとしたものが体の芯に走る。 「ぁ……」  思わずか細い声をこぼしてしまったことに反応してか、今度はぺろぺろと舐められた。 「ふふ、くすぐったい」 「…………」  次は、軽く歯を立てられた。  綺麗な白い歯が自分の皮膚に食い込んでくるところを直接見ることはできなかったが、想像したら、興奮してきた。 「……怖くないのか?」 「なんで?」 「ここ、頸動脈の真上だ」 「そうだね。本気で噛みつかれたら、死んじゃうかもね」  オーウェンは笑いながら答えた。  噛みつくなんて面倒なことをせずとも、ちょっとした刃物があれば、あっさりと切り裂かれる。殺しの技を熟知しているエスであれば、正確に急所だけを傷つけることも可能だろう。 「そんなこと言ったら、セックスで使う場所なんて、体の内側だよ? ペニスだって、普通の男なら蹴られただけで身動きできなくなるような場所だし……そんなところを他人の好きにさせるって、怖いよね」  触れられたら気持ちいい場所と、傷つけられたら致命傷になる場所が一緒だというのは、なんと皮肉なことだろう。  それを触れることを許すのを、信頼関係だという人間もいるだろう。でも、相手のことを信頼していなくてもセックスはできる。  怖くても気持ちいいことがしたいというのは、人間の愚かさだろうか。それともただの生殖本能だろうか。 「オレは、傷つけて殺すのには慣れているが、相手を気持ちよくさせるために触れたことは、今まで経験がない。だから正直……あんたに触れるのも、少し怖い」  オーウェンは愛しい手をそっと掴んで、手の甲にやわらかく口づけた。  同じようなことを、自分もついさっき、考えていたばかりだ。  自分たちの間には血の繋がりなんてないくせに、不思議なくらいよく似ているところがある。 「大丈夫だよ。小さい頃、よくくっついてきてくれたよね? 僕は、きみの頭を撫でるのがたまらなく好きで……それまで、誰かにそんなふうにしたこともされたこともなかったけど、触れるだけで幸せな気持ちになれることを、きみから教えてもらったんだよ。きみはちゃんと、傷つける以外で他者と触れあうことができるということを知っている」  成長途中でいきなり、子供らしい日常を奪われ、大人になる方法を教えられないまま体だけ大きくなってしまったみたいな、不器用で不完全で愛らしい男の頭を撫でる。 「……ただ、頭を撫でるだけとは違うだろう?」 「そうだね」  傷つけられても、この体はすぐに傷が治るようにできているし、痛いのには慣れているから気にしない。だからどんなに手酷く扱われようと問題ないのだが、それをこの場で口にするのは、多分、違う気がする。  彼は、自分を甘やかしたいと言ってきたのだ。 「……あのね、僕は、きみに痛いことをされることより、きみにいやらしくて穢らわしい自分の姿を見せることの方が、よっぽど怖い」  表面だけ撫でるような生易しい言葉だけでは伝わらないと思った。内側に隠していた本当の気持ちを伝えないと、いつかすれ違ってしまう気がしたから、こちらも覚悟を決めなければいけなかった。 「穢らわしい……?」 「汚いよ、僕は。力を得るために得体の知れない薬物を体に入れたし、目的のためなら、好きでもない相手と抱き合ったりした。いや、もっと正確に言うと、嫌いな相手としか寝たことがない。心は冷え切ってても、体はそれなりに反応するんだ。汚いよね……?」  触れたいという気持ちと、こんな汚いものに触れさせたくないという気持ちは今も同時に存在している。 「…………」  大きな掌が、腰を撫で、おもむろに内腿を撫でてきた。 「……っ」  反射的に、腰がビクリと揺れる。  脚の付け根のきわどいところを親指で擦られると、肌が熱くなってくるのがわかった。 「誰が相手でもこんな反応をするのか?」 「……っ、そんなわけ、ないだろ……」  もう一方の手はシャツをめくり、素肌に触れてきた。  腹を撫でられ、薄い胸をまさぐられる。 「ふ、ぁ……あっ!」  胸に吸いつかれた時には、頭が一瞬、真っ白になった。  小さな胸の粒に、熱い舌が絡んでくる。  これは、前にもエスにされたことがある。  だけど、以前よりも情熱的な動きに、翻弄されてしまう。 「は……ぁ……ぁ……」  舐められて、しゃぶられて、体がどんどん敏感になっていく。  熱は下肢どころか指先やつま先にまで広がり、全身を熱くしていく。  殺すための知識として人体の構造を知り尽くした男は、どこをどんな風に触れたら絶妙な刺激になるのかということについても、的確に判断している様子だった。 「オーウェン、気持ちいいのか?」 「……見てわからない?」  白い肌はすっかり火照っているし、硬くなった乳首は物欲しそうに腫れ、下肢は服の上からでもわかるほど昂ぶっている。 「これがオーウェンの言う、いやらしくて穢らわしい姿か?」 「…………」 「綺麗だよ。あんたは、汚くなんてない」  そう言って指に口づけてくる仕草は、あまりにも色男のそれだった。 「……好きな相手と寝るのは、はじめてなんだよ」 「うん」 「正直いまも、どういう反応をしていいのかわからない」 「オレがあんたに失望することはない。みっともない姿も、愛させてくれ」 「はは……」  動揺を隠すために、つい、笑ってしまった。  自分は彼を、とんでもない男に育ててしまったかもしれない。 「……あのね、僕、戦闘訓練の時、きみが僕に必死に食らいついてくる姿、好きなんだよね。もちろん、がんばっているところが偉くて可愛いとか、そういう純粋な気持ちもあるんだけど……ギラギラした目で追いかけられると、たまらなく興奮する……」  兄として負けたくないという気持ちと、征服されてみたいという気持ちは、常に表裏一体だった。  それを、ベッドの上で思い出すことになろうとは。 「そうだな……戦いは、痛くて苦しくて、辛くて悲しいものなのに……あんたと戦ってる時だけは、楽しくて楽しくてたまらないよ」  複雑そうな笑みを浮かべる顔は雄らしくて、色っぽかった。 「痛くてもいいよ。苦しくてもいいよ。傷つけてもいいよ。間違ってもいいよ」  まだ少し臆病さが残る指を、再び絡め合った。 「きみに、めちゃくちゃ求められたいんだ」  これもまた、自分勝手なわがままだ。  きっと、仰々しく愛と呼ぶほどの高尚なものでもない。  それでも、応えてくれる者がいたなら、愛になるだろう。  右手を絡めたまま左手を背中に回されて、上半身を抱き起こされる。  膝の上に乗せられ、エスを見下ろす格好になった。  この角度から見るエスの顔が好きだ。  エスもきっと、同じことを思っていることだろう。目を見たら、伝わってきた。  自然と唇が重なり合って、さっきよりも深くて淫らなキスを交わした。  唾液が音をたてて、いかがわしい雰囲気を演出する。  剥き出しの魂で求め合うのは、くだらない建前や理屈に縛られている時よりもずっと気持ちよかった。  キスをしているだけなのに薄い部屋着すら邪魔に感じられて、上の服を脱ぎ捨てたら、エスの手が下の服を脱がせてきた。  はぁ、という熱っぽい息をエスがもらすのを聞いただけで、ゾクリとしてしまう。  エスの服も脱がせにかかって、あっという間に二人とも裸になった。  求められたいと言ったくせに、気づいたら求めているのは自分の方で、上からのしかかる格好で、夢中でキスを繰り返していた。  大きな手に腰を撫でられていなければ、そのまま延々とキスばかりしていたかもしれない。  ちょっと触られただけなのに反応してしまう。  優しく撫でるような手つきは気持ちいいけどもどかしくて、腰が揺れる。  最初は遠慮しているのかと思ったが、オーウェンの反応を見て、絶妙なタイミングで直接的な刺激を避けていることに、途中から気づいた。  仕返しに、下腹部と下腹部を露骨に擦り合わせると、下から低い呻き声があがる。  目が合ったので、『もっと触って』と目線だけでねだる。  声に出さずともそれはしっかりと伝わったようで、さっきよりもいやらしい手つきで尻を撫でられて、くすくす笑った。  意図的な刺激ももちろん気持ちいいけど、素肌が触れあっているだけで心地いい。  自分とは少し違う皮膚の感触も、筋肉の感触も、意外と高い体温も、すべてが愛おしく感じられた。  またキスをして、舌を絡め合っているうちに、尻の奥の窄まりに触れられた。  そこへの触れ方は教えていない。どうするつもりなのかと思っていたら、やんわりと唇を離されて、かわりに指先を唇に押しつけられた。 「指、舐めてくれないか?」 「はは……そういうのけっこう、好きだよ」  人差し指と中指を、まとめてしゃぶってやった。  最初は濡らすだけのつもりだったのに、興が乗ってしまい、必要以上にねっとりと舌を絡めていた。 「口のなか、気持ちいいのか?」 「ん……?」 「濡れてる」  密着していた下腹部が、いつの間にか濡れていた。  エスの指をしゃぶっているうちに、思いのほか興奮してしまったらしい。 「エスの指が気持ちいいんだよ」  腰を浮かせてやると、さんざん口で愛撫された指が、中に触れてくる。 「あ……」  一切慣らされていないそこは、当然のことながら、まだ硬く閉ざされている。 「痛くないか?」 「へい、き……だから、ためしに強く押し込んでみて……」  ゆるゆると入り口を撫でられる感触はどちらかというと落ち着かないものだったが、オーウェンの反応を確認しながら慎重に指を進めてくる真剣な眼差しは好きだと思った。  中指が根元まで押し込まれる頃には肉襞がじんじんと疼いて熱を持つ感覚があったが、それがエスの指をはじめて受け入れた感動によるものか、久しぶりに中をまさぐられた刺激によるものかは、自分でもよくわからなかった。 「はぁ……は……」  荒い息を吐いて、うなだれる。  昔、半ば無理やり犯された時の方がむしろ簡単で、冷静だった気がする。  指一本受け入れるだけで、なんでこんなに必死になっているんだろう。 「なぁ……こんなことまでしておいて今さら聞くのもなんだが、オーウェンは、抱かれる方でいいのか……?」 「ん……?」 「あんたなら、どっちもできるんじゃないのか?」  指がいったん抜けていく。  ぼんやりしかけていた意識が引き戻されて、ああそういう話か、と理解する。 「まぁ、どっちもしたことがあるし、どっちがいいとかこだわりがないのは事実だけど……」  そもそも仕事のためにやっていたことなので、個人的な性癖を挟む余地もなかった。その場の雰囲気で、相手が求めるものを差し出していただけだ。 「エスは抱きたい側だと思ってたけど、違うの?」 「抱きたいと思ったのは事実だけど、オレは、あんたが相手なら、どっちでもかまわない」  まっすぐな言葉に、嘘偽りはなさそうだ。 「僕も、きみが望むなら、どっちでもかまわないよ」  役割を交替させたとしても、まぁ自分たちならうまくいくんじゃないかな、という気もする。  しかし、選んでいいという前提のもとで改めて考えるとなると……どうだろう。 「でも、僕としては、男としてのきみに惚れたから、きみに抱いてほしいな」 「……っ」  さらりと告げただけの言葉だったが、エスは息を呑んだ。  その反応に、オーウェンの方まで驚いた。 「……なに? いま、すっごい可愛い顔してる」 「いや……ちゃんと男として見られてるんだな、と思って……」 「今さら?」  素直に照れている反応があまりにも可愛かったので、唇にちゅっと軽くキスをする。 「弟としてのきみが可愛いのは永遠に変わらないけど、男としてのきみはカッコよくて、惚れ惚れするよ。……正直、僕が想像していたよりもずっと男前に育ってて、再会した時、ドキドキした」 「…………」 「好みのタイプとか、僕にはそういうのないと思ってたんだけど、なんかストライクゾーンに入っちゃった感じなんだよね。おかげで『お兄ちゃん』の顔を保ちきれなくなっちゃった。ごめんね?」  もう一度キスしたら、今度は両手で両頬を包み込まれて、舌を食まれる。  紫の瞳には、先ほどよりも明確に、欲が滲んでいた。 「どう? 僕のこと、抱けそう……?」 「あんたのためならなんでもできるって、何度も言ってる」  逞しい腕で腰を強く抱き寄せられる。

ともだちにシェアしよう!