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第25話 覆
昔から、飲み込みが早い子だった。
一度教えただけですぐに理解し、覚えてくれる、優秀な弟だった。
モーテルでアダルトビデオを熱心に何時間も見ていたのは、興味本位ではなく学習目的だったとなんとなく察してはいたが、実践への応用が完璧すぎて、さすがというべきか――相手をする側としては正直、戸惑っている。
「ふ、んん……っ、ん、ぁ……っ、あ……エス、もういいよ……」
泣きそうな声で、オーウェンは訴えた。
オーウェンはいま、ベッドの上で脚を大きく開かされて、後孔に指を挿れられながらペニスをしゃぶられている。
指はもう三本入っているし、ひっきりなしに先走りをこぼし続けている屹立の方ももう限界が近い。
服を脱いでから、一時間以上が経過していた。
全身を隈なく愛撫された末にこれなのだ。体はどこもかしこも火照って、甘くとろけている。
オーウェンは途中で二度ほど達していた。
もともと性欲が薄いたちなので、二度ももう出せばじゅうぶん、となるはずなのだが、なぜだか今は、体の奥から欲が際限なくわいてくる。
「そろそろ、いれて、ぇ……」
エスとセックスすることについては、葛藤はあったものの『いずれそうなるだろうな』という予感があった。
だが、年上として、余裕をもって受け入れてやるのは当然、という感覚だったので、自分がこんなにみっともなくぐずぐずになりながらねだるはめになろうとは、完全に想定外だった。
先っぽを強く吸われて、あやうくまたのぼりつめてしまいそうになる直前で、口が離された。
「だいぶやわらかくなってきたな」
指も抜かれて、かわりに舌を押し込まれる。
「あ、ん……っ」
舌を挿入されるのはこれがはじめてではない。さっきも散々舐められた。
だけど、あの時とは全然感覚が違う。
腰が勝手に揺れる。太腿を、ねだるようにエスの顔に擦りつけていた。
「もうだいじょうぶ、だってば……」
挿れても問題ないと、すでに何度も言っている。
しかしエスは、口と指での愛撫をひたすら続け、なかなか先に進もうとはしなかった。
オーウェンの体を心配しているのかとか、実は緊張しているのかとか、理由を考えてみたが、どうやら違うらしいと、そのうち気づいた。
挿入以外の愛撫を徹底的にほどこすことが目的なのだ。
「なか、すごい熱いな」
エスの声はいつもよりも色っぽいが、口調自体はいつもと変わらず落ち着いていて、焦りのようなものは一切感じられない。
「ね……おねがい……はやくいれて」
とうとう、オーウェンは懇願じみた声をだしていた。
「ん……」
体を起こしたエスが目蓋にキスをしてきた。
すかさず手を伸ばして、オーウェンはエスのペニスを掴んでいた。
この一時間、エスはまだ一度も達していないはずだ。
またうまく反応できていないのではと心配していたが、ちゃんと硬い。
お返しに舐めてやりたい気もしたが、今はそれよりも、早く繋がりたい気持ちの方が強くて、それどころではない。
「なぁ、今さらだけど、コンドームとか……」
「いらないよ」
「…………」
「いらない」
掴んだまま誘い込もうとすると、「ちょっと待ってくれ」とやんわり手を外されてしまった。
「なんで」
「オレがするから」
「これ以上焦らすつもりなら、無理やり上に乗って腰を振るよ……?」
「はは」
珍しく、エスが笑った。男っぽい笑い方だった。
目を奪われてオーウェンの動きが止まった隙に、またキスされる。
「ちゃんと挿れてやるから、いい子にしててくれ」
あやすような口調で言われて頭を撫でられて、ぶわりと何かがこみ上げてくる。
舌を絡められながら腰を撫で回され、自然と脚の間にエスの腰を挟み込む格好になっていた。
熱い欲望が軽く当たるだけで、ドキドキして止まらない。
息が乱れる。飲み込みきれなかった唾液が顎を伝うのを、エスの舌先が追ってきて、舐め取られる。
たまらず、オーウェンの方からまた唇を求めていた。噛みつくようなキスだった。
昔からどんな時でも、エスの前では当たり前にあったはずの余裕が、今は跡形もない。
子供みたいに無防備に、獣みたいに野蛮に求めてしまう。
「オーウェン」
「ん……」
熱に浮かされた目を向けると、ひときわ真剣な紫の瞳が目の前にあった。
「あんたのこと、オレのものにするぞ」
「……ふふ」
もうずっと前から、きみのものだよ。と思ったけど、言葉にはしなかった。
腰を抱え直されて、切っ先を宛がわれる気配がする。
ようやくだ。気が狂いそうなほど待たされた気がする。
背中に回した腕が震える。
「緊張しているのか? ……可愛いな」
「ぁ……」
じわじわと犯されていく感覚は、長く続いた。
ことさらゆっくりと腰を進められているせいだ。
太くて硬いものに押し開かれるのを待ちわびていた媚肉は、愛おしげに肉棒を締めつけるが、強靱な精神と肉体を持った男は欲望に流されることなく、ペースを急に変えたりはしない。
「あ、あぁ……っ、エス……」
掠れた声で名を呼んだ。
予想以上に熱い。それに大きい。
己の内側のすべてを満たされていく気がした。
「痛くないか……?」
「きもち、いい……」
痛みなんて感じなかった。ただ、気持ちよすぎて、ビリビリ痺れるような感覚がある。
今までに経験したことのない感覚だった。
時間をかけてほぐされたから、根元までおさめきるのはそう難しいことでもなかったが、これ以上にないくらい密着しあっても、エスはなかなか動こうとはしなかった。
「はぁ……ぁ……あ、ああ、ぁ……」
揺さぶられているわけでもないのに、喘ぎ声だけがひっきりなしに喉からこぼれる。
急にエスがペニスの方を撫でてくるのでなにかと思ったら、いつのまにか達してしまっていたらしく、白濁がまとわりついていた。
指先ですくった精液を、エスがぺろりと舐める。
「……っ」
百戦錬磨の色男みたいな表情と仕草だった。
これが初体験とはとても思えない。いや疑うつもりはないが、だからこそ、おそろしいぐらいの成長ぶりだった。
「……ふふ」
「どうした?」
「なんでもないよ。……ねぇ動いて」
この男を育てたのは自分だ。そしてこの男は自分のものだ。そう思うと、たまらなく優越感が満たされた気分になる。
「もうすこし、このままで」
「……正気?」
「体力なら、まだ残ってるだろう?」
髪にキスをされながら囁かれる。
確かに、オーウェンは常人の何倍も体力はある方だ。もっと過酷な状態でろくに寝ないで働き続けたことなんて、一度や二度ではない。
しかしこれは……違うだろう。
「僕の言うこと、聞いてくてくれないの……?」
「今日はダメだ」
完全に手懐けていたはずの男が、どういうわけだか、こんな時だけ思い通りにならないのはもどかしいものだった。
いっそのこと、痛いぐらい乱暴に突かれた方がマシなんじゃないかと思うほど、生殺しのような気分を味合わされながら優しいキスを受ける。
キスは気持ちよかった。
いろんなところに口づけられては、また口にキスされているうちに、頭がぼんやりしてくる。
熱に浮かされているというのとも少し違う。夢心地な気分だった。
それなのに、繋がりあった部分の感覚が麻痺してくるわけではなく、むしろ、最初に挿入された時よりも形や温度が明確に伝わってくる。
「……ねぇ」
とろりとした声で、オーウェンは半ばうわごとのように語りかけていた。
「ん……?」
「ぼくが死ぬときは、ぼくのこと抱いててね……?」
重苦しい約束をさせたかったわけではなかった。ただ、死ぬならこんな感覚に包まれながら死にたいと思っただけだ。
エスは少し考え込む仕草を見せたあと、心臓の真上に噛みついてきた。
「あんたは死なせない。オレが死んでも守る」
「ふふ……」
微笑んで、照明の加減で銀色に光って見える前髪に指をさしこむ。
先に死ぬことなんて許さない。
ただ、迷いのない口調でそう宣言されるのは、心地よかった。
愛されている。
――そう、なによりも愛しい存在に愛されているのだという充足感に、爪の先まで満たされていく感じがした。
髪を撫でるのに気がすむと、指先と指先を合わせて、手遊びのように指を絡め合った。
欲望を追いかけるでもなく、ただひたすらじゃれあってくっつき合っていたら、もどかしいのも気持ちよく感じられるようになっていった。
「ふ……」
「なぁ……なか、濡れてきてないか……?」
「そう、かも……」
男の体は本来、自然には濡れないはずだ。
しかし、自分はイレギュラーな体質の持ち主だ。そういうこともあるだろう。ただ、これまでに経験したことはない。
上半身を起こしたエスが、接合部分を眺めながら、少し腰を引く。
「あ……っ」
くちゃり、といやらしい音が響いて、なにかが中からこぼれる感触があった。
「すごい。ぐちゃぐちゃだ」
「ね……まって、少し動かされただけで、気持ちよすぎて……」
肩が震え、なかもひくひくと蠢く。
「…………」
慎重に、エスがまた奥まで押し込んできた。
ただ、さっきまでよりも明確に奥を突く動きに、肌が一気に粟立つ。
「あ……んぁ、……あ、……ッ、ふ、…………ぁ」
突き抜けるような快感が下半身に走る。
射精はしていない。ナカだけでイッたのだ。
のけぞった白い喉と、淡く色づいた胸を突き出すような格好に、エスが目を細めた。
「よさそうだな、オーウェン」
「あ、……ぁっ、は、……もっと……」
未知の感覚は怖くもあり、もうやめてほしい気もするのに、口は勝手にねだる言葉を口にしていた。
ゆるゆると、腰が前後に動かされる。
待ち望んでいた刺激に、あまったるい嬌声が止まらなくなる。
次第に動きが加速していって、エスの口からも、荒い吐息がこぼれるようになった。
しなやかな筋肉の上にうっすら汗が滲む光景は扇情的で、雄の欲望が剥き出しになったさまに、思わずオーウェンの口から笑みがこぼれる。
最高にいい男が、夢中で自分の体を貪っている。
今まで、セックスという行為に対していて抱いていた嫌悪感が吹き飛ぶほどの快楽と、恍惚感だった。
気持ちよすぎて、目元から生理的な涙が溢れてくる。
「ふぁ、んんんっ、……あ、ん……ぁぁっ!」
顔も下半身もぐちゃぐちゃで、全身が汗でどろどろだった。
「……いっかい、だしてもいいか……?」
掠れた声が囁きかけてくる。
「いいよ……なかに出して」
オーウェンの方ももうイきそうだ。でもまだ足りない。もっと抱き合いたい。
「でも」
「きみのこと、もっと感じさせてよ」
なにもかも自分のものにしてしまいたかった。
いったん抜こうとする腰を脚で挟み込んで抑えて、ついでに搾り取るようになかも締め上げる。
「……っぅ」
「んんっ、ぅ……ぁっ! あ、っ、ああああぁぁ――ッ」
先に達してしまいそうになるのをこらえて、ほぼ同時に高みを極めた。
腹の底を、熱い体液で満たされる感触がする。
うっとりと微笑みながら、オーウェンは、惚けた表情で呆然としているエスの頭を引き寄せて、少々強引に口づけた。
ちゅっちゅと音を立てながらキスを繰り返し、じゃれる仕草のままごろりと横に転がって、体勢を入れ替えた。
「次は僕が上で腰を振るよ。……いい?」
いい? と質問しながらも有無を言わせぬ物言いに、エスが苦笑する。
「やっぱりオーウェンには逆らえないな」
「火をつけたのはエスだよ」
けだるい余韻に満たされているのに、なぜだか楽しくてしょうがなくなってきてしまった。
汗でしっとりとした前髪を掻きわけて、キスをする。
「……ねぇ、エス」
「なんだ?」
「きみのことが好きだよ」
改まって伝えるまでもない、当たり前すぎる言葉だった。
言わなくても、エスはそんなことわかっているだろう。
だから驚きはしなかったけど、エスはちょっと泣きそうな顔で笑った。
「……ありがとう」
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