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スペシャル
「では、僕の家に寄って貰えますか? 空達にはもう声をかけてありますので、このケーキをみんなで食べながら、少し話し合いましょう」
カフェを出て車を走らせ、マンションの駐車場に車を停めた陸さんにそう促され、俺たちはエレベーターに乗り込んだ。
結局、自分の口から本音を白状して勝負に負けてしまった俺は、これからの「4人での話し合い」に胃を痛めながら、おとなしく陸さんの後ろをついて歩く。
さっきまでの陸さんの笑顔からして、話し合いが良い方向に進むのは間違いないと分かってはいながらも、この人の恐ろしい二面性を何度も見てきたのだ。土壇場になってまた判決をひっくり返される可能性も無きにしも非ずやな、と警戒を強めていた。
陸さんに続いて彼の部屋の前まで来ると、「どうぞ」と和やかな笑顔のままドアを開けてくれた。陸さんが開けてくれたドアをくぐると、その瞬間、パンッ! パンッ! と甲高いクラッカーの音が部屋中に弾けた。
「うわっ! なに!?」
「秀太、もとちゃん、両思いおめでとうー!!」
ぱっと頭上に舞うカラフルな紙吹雪の向こうで、元宮酒店から届けられたばかりであろう箱から何本か品定めした痕跡が残るテーブルが見えた。
クラッカーを手に弾けるような笑顔で立っていたのは空くん。その隣で、してやったりと満足げに微笑みながらどでかいクラッカーの抜け殻を小脇に抱えた弦と、俺がびっくりしている様子を可愛い笑顔で手を叩いて喜んでいる洸くんの姿があった。
そして部屋の奥からは、放心状態のまま固まっていて、その後ろから笑顔の新くんが背中を押しながら、俺の方へと連れてくる。
「……は? なにこれ……!?」
俺が完全に思考停止して固まっていると、後ろから入ってきた陸さんがフッと優しく笑った。
「サプライズ、大成功ですね」
「え? なんのサプライズですか? ……こんな意味わからんことするの、お前しかおらんやろ、弦!」
大混乱する俺が目の前の弦を指さすと、空くんが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「秀太さん! 騙してごめんなさい! 秀太さんと親分が、お互いに素直になれないのを見てられなくて……弦と2人で頼み込んで兄貴に協力してもらったんです」
「……え!? ていうか、2人、陸さんに交際反対されてたんじゃないん?」
「いえ、全然。むしろ弦くんには感謝しているんです。それに、僕は何があっても、空を全肯定して生きてますから」
そうや、忘れてた。俺、初っ端からこの人にその言葉聞いてたわ。なんで気づかんかってん。
目の前でニヤニヤ笑っている弦を見ると、満足げに腕を組んでネタバラシをし始めた。
「秀太がいつまでもモタモタしてるから、あんまりにももとちゃんが可哀想で見てられへんくてな。陸さんと空くんと3人で話してたら、陸さんが元子役っていうのを聞いて、ピン! とこの作戦思いついたんよ。どう? おもろかったやろ」
「……元子役」
「でも、二人きりの時の会話とかは陸さんに全部お任せしたから、俺らも二人の中で何が起こってるか全く分からんかってんよ」
「……じゃああれは、ほぼ陸さんの暴走みたいなもんやったんか」
「……暴走、してましたよね、僕。本当にブレーキ知らずで、久々の演技に楽しくなっちゃって」
少し楽しそうに照れたように笑う陸さんを尻目に、俺はポカンとするしかなかった。
なんや情報量が多くて、よう分からん感じになってんねんけど。ていうか、両思いおめでとうって、俺まだもとちゃんに気持ち伝えてへんねんけどな。
「俺も、さっきまで知らんかってん。『敵を騙すならまず身内から』やって。楽しそうやから俺もやりたかったぁ」
洸くんが駄々をこねるように言うている。
「いや、洸くんに言ったら、絶対野中さんにもバレるやん? そしたら絶対秀太にバレるやん?」
「そう、なので、洸くんには秘密にしてたんです」
「ね~?」と弦と空くんが顔を見合わせて笑っている。
「どんだけ僕、信用ないんですか?」と苦笑いする新くんをみながら、思う。
分かる。そこの気持ちだけは俺も一緒やったわ。でも、信用無いわけじゃないねん。悪意のない天然がそうさせてんねん。
「秀太さん、元宮さん、本当に騙してごめんなさい」
バツの悪い笑顔をして、陸さんが申し訳なさそうに手を合わせて謝ってくる。
「……空くんのお願いやったからですか?」
「……さすが秀太さん、わかってらっしゃる」
「……残念ながら、俺もブラコンなんで。やからこそ、今回はまんまと騙されました」
お互い苦笑いして、「まあ座ってください」とテーブルに案内される。
それでも、もとちゃんの方を気まずくて見られへん。この様子やと、こいつも騙されていた一人やな。
「……ごめんな、こんなことに巻き込んで」
「あ、いや、びっくりしたけど、ホッとしてる自分がおる」
さっき初めて見るような顔できょとんとしていたもとちゃんとやっと目が合うと、ふふっとどちらからともなく笑いが込み上げた。
「……じゃあ、陸さんは秀太のこと、本気で好きちゃうってことか」
もとちゃんが蚊の鳴くような声でぽつりと呟くと、陸さんが丁寧にお辞儀をした。
「ええ、元宮さん。秀太さんを傷つけるような真似をして申し訳ありませんでした。ですが、思っていたよりも早くお二人の気持ちが通じ合って、僕もホッとしています」
「……そっか……良かった」
緊張の糸が完全に切れたもとちゃんは、へなへなとそのまま床に座り込んでしまった。そんなもとちゃんの頭を、洸くんが「よかったねぇ、もとちゃん」と笑いながらポンポンと叩いている。
「……ていうか、両思いもなんも、俺、もとちゃんに何も言うてへんねんけど」
「……え?」
「いや、だって、さっき陸さんから『2人うまいこといったみたいやから全員集合』ってLINEきて……」
「え、だって、ネックレスもらってるし、元宮さんのこと……」
陸さんが、口に出そうとした言葉を、慌てて自分の手で塞いでしまう。
「フライングもええとこですね」
俺は呆れと、照れくささと、胸いっぱいの温かさで、思わず深いため息をついたあと、盛大に吹き出してしまった。
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