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【二】青羽―ヴァイキングに囚われて③

 肌触りのいいモコモコガウンを羽織って脱衣所の椅子に座った俺は、頭をわしゃわしゃと拭かれ、ドライヤーを当てられた。なんだかペットショップのトリマーと犬みたいだ。髪を梳く大きな手が心地いい……。 「なあ、これからセックスするのか?」 「いまはしない。疲れてるのに無理矢理したら、青羽(あおば)が大変だろう」  俺の身体を気遣ってくれたのか……。 「なんか、惚れちゃうセリフだな」 「そうか。じゃあ恋人昇格か」 「……いいよ」  あれだけしといて、いまさらだよな。 「よし!」  その破顔一笑が眩しすぎる……。これ以上格好よくなってどうするんだよ、この人。  チュ。  瞼を閉じたら唇にチューされたぞ。 「目薬じゃなくてチューが来た」 「目が痛いのか?」  赤いイケメン光線を浴びたんだよ……。  リビングのソファーで出されたビールにためらった。 「俺、そろそろ帰らないと」 「ここで数時間寝てからにしろよ。妹は高校生なんだろう?」 「弁当を持たせてるんだよ。明日は終業式なんだ」 「いいお兄ちゃんだな」 「俺が保護者だから、自立するまでは責任がある」 「もう寝てるだろ。メールしておけばいいさ」 「そうしようかな」  促されるままにメッセージを送信して、缶ビールで乾杯した。  プシュ。カチン。 「乾杯」   ゴクゴクゴクゴク。 「プハーッ。うまい!」 「酒はいけるのか」 「滅多に飲まないけど、ビールは好きだよ」 「好きなだけ飲むといい」 「社長は気前がいいなあ」 「透だ」 「透は、俺がゲイだってすぐわかったのか?」 「いや。でも惚れた男を堕とすつもりだった」  さすがイケメン発言だぜ。俺に惚れられる要素がどこにあるかわかんないけど、飽きられるまで付き合ってもいいかなぁ、なんて思った。 「妹を大学にでもやるのか?」 「え?」 「ここで働く理由だよ。子供のいる親は、ここで進学費用を稼いでるだろう。青羽もそうなのか?」 「あ~……実は妹が俺に内緒で最新式のスマホを買ってたんだよ。十五万円の請求書が来て、慌ててバイトで稼ぎに来たんだ」 「ネットで買ったわけだ」 「そう。叱ったら拗ねて会話もしない。妹は遅れてきた反抗期なんだよ」  父親代わりになれない情けなさを、笑って誤魔化した。 「先にベッドで寝てるといい」 「うん、ありがとう」  モノトーンの落ち着いた雰囲気の寝室には、キングサイズのベッドが置いてあった。 衣類は洗濯機に放り込まれて運転中だし、下着を借りてもずり落ちるだろう。ガウンのままシーツに滑り込んだら、ふわふわとした感触が心地よかった。せんべい布団のゴワゴワシーツの一億倍柔らかいや……。    チュ。チュ。チュ。カプ。 「ん……?」  ふわふわと熱に包まれて動きたくない。 「おはよう。もうそろそろ六時だよ」  わお。目を開けたら赤銅色の海……ではなくて、ライオンのたてがみを持つ水上社長だった。マグカップを手渡され、芳醇な香りのコーヒーをすすった。なんだ、ここは天国か。 「残念だが、天国を見せてあげる時間がないな」  心の声が漏れてたか……。 「社長」 「透だ」 「トール……って、帰らなきゃ!」 「落ち着け。車なら十分で着く」 「あれ、Tシャツ着てる」  恐らく寝ている間に着せてくれたのだろう。ちんこも心も大きい男だな。 「と、透。ありがとう」  心のちんこ発言が気恥ずかしくて、えへへ、と笑って誤魔化した。

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