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【二】青羽―ヴァイキングに囚われて④
「……くっ。会社さえなければ」
透がなんだか悔しそうに呟いているぞ。
黒の高級ワゴン車は、あっという間にボロアパートまで到着した。夜明け間近の路地は、まだ薄暗く人影もない。黒いコートの男は苦もなく自転車を地面に降ろした。
「ありがとう。帰り道気をつけて」
チュ。チュ。チュ。カプ。
イケメンがためらいもなく俺の唇にチューをしてくる。最後に鼻へ噛みつくのは、なぜなんだ?
朝日が木々の間を縫って差し込み、赤銅色の髪が輝き始めた。指先に絡めたらツルツルだった。
「綺麗だな」
「青羽の瞳は、黒曜石の一億倍も綺麗だ」
「なんだかドラマのセリフみたいだな」
小っ恥ずかしさで身震いした。眼鏡をかけていないから、フェチエフェクトでもかかってんのか?
「今夜もいっしょに風呂へ入ろう。送っていくよ」
「毎日は無理だよ」
「残念だな」
手を振って見送るとテールランプがウインクした。なんだか歌にそんな歌詞があったような……懐メロだったっけ?
ガチャリ。
そっと玄関を開けると、居間はまだ暗かった。妹は七時頃に起床する。急いで米を炊き、弁当のおかずを作り始めた。時間がないから、焼いて冷凍しておいたハンバーグを詰めよう。サブはジャガイモとピーマンの炒め物にカレー粉で味付けして……。大好きな甘い卵焼きも入れたら喜ぶかな。
ガララ。襖から欠伸をしながら妹が起きてきた。
「ふぁ~、おはよう」
「おはよう。帰るの遅くなってごめんな」
「別に……。たまには友達と遊べばいいじゃん」
「そうだな」
いまさらだが『友達の家で飲んでくるから遅くなる』だなんて、妹が信じたのか怪しい。
「バイト先の人と仲良くなって、宅飲みしたんだ」
「へえ~。人見知りのお兄ちゃんが珍しいね」
「凄く良い人なんだ」
凄くイケメンで、フェラチオが超絶上手いのは秘密事項だ。
「もしかして彼女できたの?」
「なっ、男の人だよ」
「じゃあ彼氏だね」
「ひょえっ?」
「窓からキスしてるの見えたよ。あたし、お兄ちゃんがゲイだって知ってるよ。マキさんに迫られて勃起しなかったんでしょ。母さんに話してたもん」
「奈々、知ってたのか?」
「ゲイだって事?」
「そうだ」
「うん。いままでごめんね、お兄ちゃん。母さんがあたしの面倒を見ろだなんて言い遺したから、大変だったよね」
「そんな考えはやめろよ、兄妹だろ」
「……違うよ。だって籍も血も繋がってないもん」
「……父さんは、母さんや奈々を大事に思ってた。俺もだよ」
「ありがとう。あのね、あたし結婚したい人がいるの」
「結婚!」
いつの間に。奈々はまだ十七歳だぞ?
「相手は誰なんだ。学生か、社会人か?」
「日曜日に連れてくるよ。挨拶に来たいんだって。会ってくれる?」
「あ、ああ。もちろんだよ」
どうやら常識は持ち合わせているようだ。社会人なのか?
「ありがとう。明日は彼のところに泊まってくるからね」
「もしかして、ずっとその相手の家に泊まっていたのか?」
「あたりまえじゃん」
おう、なんてこったい……。
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