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【三】水上―湧きでる害虫たち①
払っても払っても砂糖を探し当てる蟻のように、ホテルや俺に集る人間が後を絶たない。
数珠つなぎに繋がる彼らは赤の他人なのに、みな邪悪な表情を浮かべる――。
東北一の繁華街で育った俺、水上 透 (二十八歳)はゲイだ。
旅行先で見初めたハーフの母を娶り、父が故郷であるこの場所でホテル業を始めたのはかれこれ三十年前のこと。
このファッションホテル『ルキア』は、五年前までビジネスホテルだった。両親が飛行機事故で鬼籍に入る寸前にここを任され、一番街商店街から百五十メートル西側に位置する歓楽街の利点を生かしてラブホテルへ改装した。夜の店で飲んだカップルがデートコースの締め括りにここへ訪れるのだ。
ビジネスホテルと明らかに違う点は、客の回転率だ。一室に一名〜二名で約一万円の宿泊料よりも、二時間〜四時間で三、四回部屋を貸し出せば利益率が上がる。深夜を過ぎれば宿泊に切り替わるので、ビジネスホテルよりは明らかに儲かる計算だ。だがそう上手く事が運ばないのが世の常。お洒落な室内、飲食店に引けを取らない食事メニューが話題になり客が押し寄せた反面、従業員が異常なほど定着しない――。
百二十万人以上の政令指定都市中心部に位置し、地下鉄駅にも近いこの人気ホテルは、毎月求人情報サイトに登録すると数人が応募してくる。
大半が既婚者のパートかダブルワーカーだ。体力も元気もある学生のバイトは大歓迎なのだが、時給のいい他のバイトへすぐに移ってしまう。精液の着いたティッシュを拾うのにうんざりして辞める人間は驚くほど多い――。
※ ※ ※
「オーナー、自販機の金額がまた合いません」
俺は『ルキア』から通りを三本隔てた場所に、もうひとつホテルを経営している。両親が開業した『ホテル水上』は、五階建てのこぢんまりとしたビジネスホテルだ。三十室の客室は出張目的のビジネスマンでほぼ毎日満室になる。
表情を曇らせた女性社員が差し出してきた台帳を確認する。彼女が不正に気付いたのは三か月前。犯人はとうに目星がついていた。
「……阿部さん。この日に補充したのは誰だ?」
飲料水と釣り銭を補充し売り上げを回収する際は、ノートへサインをするのが決まりだ。先月の補充ノートには三カ所空白欄があった。
「マネージャーです」
「やはりか……」
各階に設置した自販機は、必ず正社員と俺が補充と回収をする。以前真面目な学生アルバイトへ任せたら、小銭をくすねられて痛い目を見たせいだ。
月末の収支計算で異常に気付いたのは、このベテランフロントの阿部だった。売り上げと飲料水の在庫がズレ始め、その金額は三か月で五万円に達していた。無論、犯人は梶だ。
隣県のビジネスホテルでの経験を買い、十も年嵩の彼を雇ってみたら、ギャンブル依存症のパチンカスだった。
ホテルのフロントマンは給料がさほど高くない。社長兼オーナーの俺も同様だ。温泉付きの小洒落たホテルなら曜日で客室価格を変動させるのも可能だが、あいにく分町に立つ『ビジネスホテル水上』は平均的なただのホテルだ。だが、それと売り上げを着服するのとは話が違う。
真夜中のシフトは基本、正社員とアルバイトのツーオペ体制を取っている。夜中専門の正社員、佐藤は信頼できる数少ない人間だ。彼にフロントを任せ、アルバイトが仮眠を取る午前三時に監視カメラを設置して二週間が経っていた。そろそろ調査結果が出た頃だろう。
プルルルル。
「もしもし、テツさん。そろそろ足は付いたかな」
「こんにちは、水上社長。全部揃いましたよ。どちらにいますか?」
「ビジホだ。自宅へ移動するよ」
「了解しました。じゃあ十分後に」
不安げな表情のフロントへ声をかけた。
「阿部さん。証拠を揃えたら彼を解雇するから、それまで君は知らぬ振りで頼むよ」
「わかりました」
「備品の棚卸しは君がしてくれ。決してマネージャーにやらせないで欲しい」
「もし強引にやろうとしたら?」
「その時は電話してくれ。すぐに来るから」
「はい」
「梶は強引なのか」
「昨日備品倉庫で彼に後ろから抱きつかれて、胸を揉まれました」
「なに!」
「缶ビールで殴ったので額が青くなってます」
「なぜすぐ連絡しなかった?」
「いま報告してます。バイト学生がさっきまで一緒にいてくれたので大丈夫です」
「梶の出勤時間は?」
「午後四時です」
「二時に戻る。もし彼が早く現れたら、すぐに電話してくれ。ひとりで対処するなよ」
「ありがとうございます、社長。五十過ぎの私に抱きつくなんて、よっぽど欲求不満なんでしょうね」
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