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【三】水上―湧きでる害虫たち③
アメリカ兵に引けを取らない体躯に、極限まで刈り上げたクルーカットと強面の容姿。そこいらの女性が後退りする鋭い眼光は、親しい俺でさえ背筋にヒヤリと冷気が走る時がある。お前まさか、女性と一緒のベッドでは笑わないなんてことあるまいな?
「内蔵したAIが人間の行動パターンを学習して、犯罪に結び付く仕草を検出した場合に録画と同時にランプ点灯でお知らせします。フロントモニターは、主に廊下やロビー、エレベーターのみを映し出します。社長のパソコンのみ、『ルキア』と『水上』各三十箇所の定点カメラを切り替えて監視可能です」
「それぞれ三十箇所も。大変だったな……」
「『ルキア』も半日休館にしてくれたお陰でスムーズでしたよ」
『ルキア』及び『ビジネスホテル水上』で勤務期間の浅い社員やバイト達には、館内の空調設備工事と銘打ってあった。
「それで、何か映し出してたのかな?」
トルコブルーの一点ものソファーに座るテツが黒いアタッシュケースからノートパソコンを取り出した。来客用のミニ冷蔵庫からビールを手にした俺に首を振るので、ミネラルウォーターと交換する。あくまでもビジネスで通すらしい。
カチカチ。
「まずビジホのほうですが、社長の懸念したとおりでした。自販機の手元が映るカメラが一番反応して録画されてます。これは昨日の夕方ですね。例の梶とか言うマネージャーが売り上げを回収してます。ほら、ここ」
画面内の赤い警告ランプのシーンを一時停止してテツがスクロールした。
「札を三枚、スラックスのポケットへ入れてますね」
「……クソ野郎め」
「その顔、女性が震え上がりますよ」
「お互い様だろ」
「確かに」
右頬に刺し傷のある傭兵がクックと笑う。
二週間で三回の補充、売り上げ金回収作業で一万円以上抜き取っている。支払いが翌月末だから、先々月からずれていることに女性フロントが気づいたのか。
「在庫の数に余りずれがないのは何故だ?」
「これのせいですね」
カチカチ。
テツがノートパソコンのタッチパッドに指を滑らせ、新たな画像に切り替えた。場所はビールやジュース類が保管してある三階の保管庫だ。社員はそこから台車に乗せて各階の自販機コーナーへ補充しに行く。日付の違う十二枚のカメラ画像は、マネージャーの梶が段ボール製の箱から缶ビールを取り出す姿、柱に寄りかかり缶ビールを煽る姿、空の缶を悪びれもせずに自販機コーナーのゴミ箱へ投下する姿が映っていた。
「くすねた金の分を飲んで証拠隠滅しているつもりでしょうかね。気分も高揚して一石二鳥だな」
「ホテルに戻って首にしてくる」
「グループ企業のブラックリストに載せときますよ」
「警察に突き出してもいいが、無駄だろうな」
「こういう手合いは繰り返し他人の金を狙いますからね。任せてくれるならマグロの社長に連れて行きますよ」
マグロ漁船の船員は、いつでも大募集中だ。出港してしまえば嫌でも働かざるを得ない。
「役に立つかな」
「そりゃもう」
「じゃあ、一緒に行こうか」
「その前に、こちらのホテルも見てください」
「何か問題が?」
夜になるとチンピラ達がナンパした女性を泥酔させて『ルキア』へ連れ込もうとするトラブルが度々起きる。レイプ画像をエロサイトでアップして稼ごうとする馬鹿な輩が後を絶たない。こちらもテツに依頼して死角を作らない監視カメラを増やしていた。設置場所は廊下やエレベーター、非常階段に備品倉庫、フロント内部や休憩室、メインは駐車場とホテルのロビー、待合室だ。客室と更衣室にはない。
だがカメラは、ネズミたちの愚行まで映し出していた――。
「珍しいショーですね」
「ショー?」
「ご覧あれ」
探偵の笑顔が凶悪すぎるぞ。
カチカチカチ。
切り替わったパソコン画面には、若い男が映し出されていた。場所は建物内の北に位置する非常階段最上段、つまりペントハウスから直接ホテル内に繋がっている『水上家の玄関』だ。俺がペントハウスの住人だと知るのは社員だけだ。バイト達は十段手前の踊り場横の鉄製ドアが火災時の緊急非難用梯子へ続いていると教えられている。
その男は人気の無いドアに寄りかかり、スラックスのファスナーを下げて片手を規則正しく動かしていた。
「家の玄関前でオナニーショーか」
ああ、こめかみの血管がブチ切れそうだ。どうにかしてくれ。
「バイトですか?」
「いや、先週入った試用期間中のフロント社員だ」
ソファーから立ち上がり、金庫に保管してある従業員の履歴書ファイルを探偵に手渡した。ファイルの一番上に、逸物をせっせと扱いている男の真顔があった。
「……二十五歳。職を転々としてますね。これが理由かな。どうします、現行犯で捕まえますか?」
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