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【三】水上―湧きでる害虫たち④

「階段にスペルマ一滴でも見つけたら、サメの餌にしてやる」 「社長、これくらいじゃ組長が許しませんよ」  ……許すほどの罪って何なんだよ。冗談に決まってるだろう。俺はヤクザじゃないぞ。  父親の跡を継いでホテルの経営をしているが、進んで県下の企業をグループ化している『ブルーレングループ』の傘下に入った訳じゃない。  逝去する数年前、父親がうまい投資話に引っかかり、ホテルを抵当に入れるほどの借金を背負って途方に暮れていた。それを救ったのが、この街のドンだ。  交換条件はグループ企業への加入と、スクランブルの避難場所を作ること。ペントハウス北側の一部は『龍青会組長専用のシェルター』が備えてある。借りた金はキッチリと返した。皮肉にも両親の生命保険と飛行機事故の慰謝料、そしてビジホの売却代金だったが――。    他にもバイト数名が補充用のビールやジューズを備品室で飲んでいたり、客室で発見した小銭を入れる缶から金を抜き取っている姿が暴かれた。皆、明らかにフロントデスクのモニターには映らない場所を確認しての犯行だった。解雇の人数は五人。すぐに求人サイトへの募集を増やさなくては。人を首にするのは容易だが、前人を上回る能力と常識を持ち合わせた人間が来るとは限らない。  心の色が読める能力が欲しい。手に入るなら、この見た目を引き換えにしても構わない。女を酔わせる風貌だなどと妬まれても、ゲイの俺にはありがた迷惑だ。  テツの協力を得てギャンブル依存症のマネージャーを解雇し、金を回収した。幸いなことにパチンコで大勝ちしたお陰で命拾いをした梶は、探偵のバンに詰め込まれて県外へ追放された。マグロ漁船の船員なら新鮮な刺身が食べられたのに。出戻っても、グループ企業に布令状が出回っているからもうこの街では働けまい。ビジホでは安堵の表情を浮かべた女性フロントを昇格させたが、正社員がまだ足りない。 『ルキア』へ戻ると、さっそく夜間の清掃バイトの面接応募が入っていた。明日やって来る人間は果たして鬼が出るか蛇が出るか。神のみぞ知るところだ。  その夜に出勤したチンカスオナニーフロントと、ビールを盗み飲んでいたアホ学生に写真を見せて首にした。  癒やしが欲しい、癒やしが欲しい。  癒やしが欲しい、癒やしが欲しい。    クズ野郎だらけの町で、俺を癒やしてくれる男に巡り会える機会なんてありはしない。狩り場(ゲイバー)に出掛けてセックスは満たされても心は癒やされない。俺の金まで欲しがるのは男女共通の行動だ。    ※ ※ ※    俺の勃起をしゃぶらせてぇ――。  事務所で所在なげに座る若者を見た瞬間、脳髄を貫いたのは欲望だった。  疲労がピークに達して、ついにおかしな考えが浮かんだ。 『そうだ、この青年を飼おう!』  愛玩動物を家に閉じ込めて、好きなだけ抱きしめる。休日は気晴らしにドライブに連れて行こう。欲しいものを買い与えれば、満足して楽しいセックスができるに違いない。  ……いやいやいや。何考えてるんだ俺は。これじゃ、ひと昔前のたぬき親父じゃないか。  でもこちらを見る眼差しは、明らかに性的対象としての『それ』なんだよなぁ。  瞳の大きな青年の履歴書は二十一歳と記入されている。小さな町工場は給料が低いのだろう。Wワーカーは皆、低賃金を補う為にここで働いている。 「あれ、ここは写真スタジオじゃないよね?」    頬を染めている彼は、どうやら俺の容姿が気に入ったようだ。耳を隠すほど伸びた髪。垂れ目気味の大きな瞳は平均的な日本人より茶色で、唇もふっくらとしておいしそうだ。細い鼻梁は気弱な印象を与えるが、質問の受け答えはハキハキとして気持ちのいい若者だった。彼はゲイなのか?   確かめたいが、パワハラ面接で逃げられたらマズい。  たたでさえ女子大生のバイトは俺のベッドに潜りたがる。繁華街の蝶もしかりだ。潜って、むしゃぶり尽くして腰をマシンガンの如く打ち込めとねだり、対価を要求してくる。これは俺じゃなくて友人(某コンサルティング会社の副社長)の体験談だ。  若い娘たちは俺がゲイだと知ったら即バイトを辞めるに違いない。働き者の中年ワーカーや男子学生で固めたいが、変態に来られても困る。  翌日から働き始めた日野君は、汚れたシーツを担いで噴き出た汗がおいしそうだった。  いいじゃないか、舐めて彼がどんな反応をするか確かめるんだ。手に堕ちそうなら巣穴に持ち帰ろう。

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