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【四】ナナ―寄生虫は駆除できない

※本作品は一人称複数視点の群像劇スタイルです。この話はナナ(女子高生)視点ですが、男女のラブシーンなどはありません。演出上、必要な視点になります。 ◆◆◆◆◆◆ 「あんたの母親は、やっぱりあばずれだよ」  結婚詐欺で逮捕された母さんは、親戚連中の恥だった。  そうです。あたしの母さんは最低な女です――。 『楽になりたい。楽な暮らしがしたい』  呪文のように飛び出す言葉を、何百万回聞かされただろう――。    東北一の繁華街から西へ数キロの町で育ったあたしはナナ。  物心ついた頃には『小金を持ったおじさん』が、横に座る母さんの太腿を撫で回していた。自慢じゃないけど、母さんは目尻が少し上がった、唇もぷっくらした美人だ。 「アサコさんは、クレオパトラより美しい」 って、どこかの社長がデレデレだった。酷い暴力や、ネグレクトを受けた記憶はない。ただ母さんが働くことを嫌い、男に囲われたがって誰彼構わずに身体を開いただけ……。  クラスメイトはあたしと遊ぶのを親から禁止され、友達は出来なかった。母さんは孤独な娘に謝るなんて思いつきもしない人間だった。 「ほら、ナナ、珍しいオルゴールでしょ? ○○さんがイギリス土産にくれたのよ」 「ナナ、このステーキは最高ランクのお肉なのよ。おいしいわ、△△さん」 「××さんが、沖縄に連れて行ってくれるわ。さあ、準備しましょ」 「今度こそ、幸せになりましょうね。ナナ、お母さん頑張るわ~」  母さんが頑張るのは寝室の中と、小金おじさん達の財布を開かせるときだけだった……。   『貞操観念てものがないんだよ、あんたの母親は』 『股が緩い母親を持って、気の毒だねぇ』 『アサコと一緒にいたら、将来ろくな人間にならないよ』  自分の親が恥ずかしいと思っても、親戚の前で針のむしろに座るよりはましだ。 弁護士に質問されたけれど、Aさんも、Bさんも、Cさんも、Dさんも、『母さんを幸せにするにはお金が足りなかった』としかいえない。だって『シモダアサコ』はお金しか愛せない女なんだもん。  ごめんなさい、おじさん達……。  執行猶予付き有罪判決は、あたし達親子を追い詰めた。そんな時に出会ったのがアオバ兄ちゃんのお父さんだ。  ヒノさんはリストラで人生の坂道を転がって、捻挫したままの冴えないおじさんだった。  救いは息子が綺麗な顔だった事くらい。母親似でよかったね、アオバ君。あたしより整っているから悔しくて黙ってるけど。これ以上美が増幅しないように、アオバ君の唐揚げを奪って食べちゃったもんね。だからかな、あたしと身長が変わらない。ヒノさんは熱演女優もビックリのアサコティアドロップにだまされて、一緒に暮らす羽目になった。同情を愛情と勘違いしちゃったパターンだ。アオバ君は思春期にもかかわらず、妹が出来たと喜んでいた。  ヒノさん、アオバ君、チョロすぎる……。  ヒノさんが派遣労働で稼いでも、月二十万円がせいぜいだ。だから母さんは初めて料理を頑張った。節約料理レシピ本だなんて、追い出されたら後がないと考えたのだろうか……。  半分以上が野菜の餃子だなんて、作ったこともないのに何故チョイスした。なんとアオバ兄ちゃんが皮の包み方を教えてくれて、母さんが焼いた。ヒノ父さんも、すごく喜んでた。六畳二間のボロアパートに餃子と、ご飯と、味噌汁と、笑顔。  ああ、あれは確かに家族団らんだった――。   ※ ※ ※ 「失敗した? なんでよ!」 「だって、オッパイだしたら逃げ出しちゃってさ~。もしかしてホモなんじゃないかな」 「アオバがホモ……」  襖越しの会話は衝撃的だった。 「あんたの奴隷にしてくれなきゃ困るのよ。ねえ、ナナが心配なの。あの子をトミオになんてやれないわ」 「大抵の男は、一度寝りゃ言いなりよ。あたしのテクは最高だって評判なんだから!」 「ユキコ、もう一回やってみてよ」 「母さん、アオバ兄ちゃんに何したの?」 「ナナ!」  会話の主達は、あたしの乱入に驚いたようだ。今日が終業式だなんて知りもしないんだろう。シモダアサコは毎日が日曜日だ。ヒノさんがうっかり亡くなって、ちゃっかりアオバ兄ちゃんに人生を背負わせて生きている母さん。ユキコさんだって同じだ。二人は男達に寄生して生きている。 「ナナ……あんたも分かってるだろう。母さんはもうすぐ死ぬんだ。そうしたらきっと、親戚がナナをトミオに預けるに決まってる」 「誰、トミオって?」  足下から気味の悪い予感が這い上がってくる。 「従兄弟だよ。あいつは小学生の頃からあたしを欲しがった変態だよ。ちんこおっ立てて追いかけて来たんだ」 「げっ。母さん襲われたの?」 「あいつは三つ下だから、蹴り倒して逃げたさ。中学になってさすがに力じゃ叶わないと思って、田舎を出たんだよ」 「母さんのストーカーなの?」 「親戚は、トミオが女子中学生を何度か襲いかけたのをもみ消したんだ。月いちソープを餌に、畑仕事をさせて監視してる。いい加減ジジイになっても相変わらずズボンのチャックを開いて女を追いかけ回してるんだよ」 「あたし、親戚のところになんか行きたくない!」  そのジジイにレイプされるに決まってる。 「……高校卒業までアオバに養ってもらいな。そのためにユキコに頼んだんだ。ユキコと寝てれば、アオバはナナに手を出さないだろう」 「兄ちゃんはそんな事しないよ!」  籍は繋がってないけど、優しいお兄ちゃんでいてくれる人なんだ。 「まあ、ホモなら安心だ。いいかいナナ。これから言うことを、よく聞くんだよ……」  余命わずかの母さんは、ユキコさんが盗撮した変態ジジイの画像を見せて恐ろしい遺言を語りはじめた――。  そう、あたしは寄生虫。結局は母さんと同じ。親戚を拒んで、養護施設行きを拒んで、心優しいアオバ兄ちゃんに泣きついた。だってその方が『生きるのが楽ちんだから』。汚い物を触るのもいや。汗を流して立ちっぱなしの仕事もいや。一日中パソコンに向かうなんて、考えただけで頭痛がするんだもん。楽しい人生が送りたい。母親に振り回された時間を取り戻して、キラキラ輝く世界で生きるんだ。    アオバ兄ちゃん、ごめん。もう少しだけ一緒に暮らしてね。  神様お願い。どうか、あたしに王子様をください。    そう願ったら、白馬に乗った彼が現れた――。

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