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【六】青羽―ヴァイキングに囲われて⑤
六階にあるペントハウスは6LDKの豪邸だった。大きな浴室が一カ所、シャワー付き客室が二室、ウォークインクローゼット付き寝室、書斎、二十畳のリビングダイニング、俺の荷物を置いた和室には仏壇が飾られていた。日本人男性と赤毛の外人女性。透のご両親だ。さらに倉庫と化した洋室やトレーニング室まであった。
「ジムに通うのが面倒でね、ここで運動している」
ランニングマシーンや数種類のジムマシーンが大きな窓から差し込む朝日に輝いていた。
「俺も筋肉マッチョになれるかな?」
「マッチョは要らないと思うぞ。青羽は今のままで素敵だ」
なんだろう、異国の血は褒め言葉の遺伝子が組み込まれてるのか。チュ。
「それは疑問だよ」
だって俺の身体は、あばらが浮く寸前だもんね。
「青羽、おいで」
書斎の机に、椅子を追加して並んで座った。赤い眼鏡をかけた透が、デスクトップパソコンに特殊な機械を使って俺の虹彩と指紋を登録していく。さらに渡されたカードキーを携帯しないと扉が開かない厳重なセキュリティーだ。
「アラブの王様が泊まっても大丈夫そうだね」
「そうせざるを得ない事情があってね……。ほら、こんな奴がチョロチョロするんだ」
カチャカチャ。
パソコン画面には、十二分割された画像が現れ、フロント内部やホテル玄関、ロービーの様子から『ルキア』の館内だと分かった。
「これ、防犯カメラ?」
「そうだ。見せたいのはこれだ」
カチャ。マウスがある画像をクリックすると、人物が拡大された。ワイシャツに黒いベストにスラックス。フロント社員の制服だが、見慣れない顔だ。その男性は非常階段の踊り場で壁により掛かり、なんと股間の勃起を出して扱いていた。
「マジか……」
「全くだ。隣に鉄製ドアがあるだろう。あれは、ペントハウスに繋がる我が家の内玄関なんだよ」
「犬におしっこかけられるより、たちが悪いね」
カチャカチャ。
次に映し出されたのは、清掃用のタオルや補充用の備品(コンドームやブラシ、ティッシュペーパー、ライター等)が載ったワゴンを備品室に異動させ、落ちていた小銭を入れている貯金箱を開けているバイト女性の姿だった。手に握った小銭を短パンのポケットから取りだした巾着に入れてから、元の場所にねじ込んでいた。
「袋を用意してるのは、音を消すため?」
「落としても、客の忘れ物だと誤魔化せるからだろうな。ビジホのマネージャーは、自販機の売り上げをくすねてパチンコにつぎ込んでいやがった。青羽が面接に来る前日、五人クビにした」
見慣れつつある眉間の皺を深くして、吐き出すように告げるヴァイキング。
「うわ……。オーナーは大変だな。誤解してたよ、ごめんな。でもこれ、俺に見せちゃっていいの?」
よしよし、とうねる赤毛の頭頂部を撫でた。イケメンの金持ちオーナーは、悩みがないと思い込んでいたよ。
「うわわっ」
膝の上に抱き上げられたぞ。俺はお姫さまか。そしてぎゅうぎゅう抱きしめられて、鼻先を俺のもさもさ頭に擦り付けてきた。
「面接に来た青羽がかわいいから、癒されたくて我慢できずにキスしたんだ」
チュ。チュ。こめかみへの刻印が心地いい。
「それに、心が綺麗で、働き者だ」
「普通の人間だよ」
透は疲労で、かなり美的感覚が鈍ってるみたいだ。
「お金を拾っただろう? 卑しい人間は声をかけずに懐へしまい込んでいただろうな。あそこはカメラの死角だとバイト連中は思い込んでるから。フロントデスクのモニターは、廊下とエレベーター内しか映らないんだよ」
「お金を盗むために、フロントで監視カメラの場所を確認してるの?」
「そんなにビックリする事かな。ほら、これを見てご覧。さっき話した自販機横領男だ」
カチャカチャ。
画面が切り替わり、見知らぬ倉庫で横領男が冷蔵庫からビールを取り出して立ち飲みしていた。
「これ、ビジネスホテルの備品倉庫?」
「当たり。売り上げと在庫のずれを調整しているつもりなんだろうな」
「馬鹿野郎だな!」
透の肩に右腕を回し、首を揉んであげた。
「その通り。嫌がる女性フロントの胸まで揉みやがった」
「最低だな!」
「青羽は天使だよ」
「まさか。……俺の父親はリストラされてから仕事に恵まれなくて、クラスメイトの持ち物がなくなると真っ先に俺が疑われたんだ。あれは凄く嫌な思い出だよ。だから絶対に他人の物は欲しいと思わないし、金は自分で稼いだものしか使わない」
「……そんなふうに清廉潔白な考えの人間は、ここでは貴重なんだ。俺はこいつらを繁華街の害虫って呼んでるよ」
「ハイエナじゃないの?」
「人の財産を搾取することを、なんとも思わない人間はクズさ。俺だって、そんな大層な人間じゃない。ここはクズが集まりやすい街なんだ」
「屑だなんて……。せめて星屑っていったら?」
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