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【六】青羽―ヴァイキングに囲われて⑥
「星屑か、いいな。でも夜の繁華街じゃネオンのほうが眩しいぞ」
「一生懸命に働いて、輝こうとしている人達もいるよ」
「鈴木さんや山本さんのことか」
「うん。子どもの為に頑張ってて、俺、尊敬してるんだ」
「青羽だって赤の他人を養ってきただろう。俺には出来ない」
「奈々には、まともな親戚がいなかったんだ」
そしてまともな母親も……。わざわざ死人に鞭打つ必要もないので黙っていた。
「俺はこれから『ルキア』に出勤するから、青羽はゆっくりするといい。髪は明日一緒に切りに行こう」
「え、いいよ。そこら辺の床屋で……」
「一緒にいこう!」
「うん……」
なんでそんな鬼気迫る顔してるんだ?
チュ。チュ。チュパッ。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい!」
エレベーターに乗り込む寸前まで俺にキスしまくっていた赤髭のヴァイキングは、名残惜しげに出勤した。車庫のドアから出て、正面玄関から出勤するのが彼のルーティンだ。まあ、社長室から突然現れたら皆ビックリするだろうからな~。
それよりも、このペントハウスには食材がなさ過ぎて料理が作れない。鍵(カードタイプ)を渡された事だし、商店街に買い物へ行こう。六畳のウオークインクローゼットへ少ない衣類を置くのは後まわしだ。不慣れな認証セキュリティを突破し、鉄製ドア横のモニターから周囲を確認して駐車場を通り抜ける。ふう、やれやれ。毎回気が抜けないなあ。でも女性軍の冷たい視線を浴びるくらいなら、俺は忍者生活を選ぶぞ。
まずは銀行で退職金を預けよう。『ルキア』を出て東へ五十メートル歩くと、魚町(さかなまち)公園が見えてきた。横にある分町交番でスーパーの場所を尋ねた。
「若者はスマホで検索するのに、君は珍しいね」
ポテ腹の警官にスマホのひび割れ画面を見せたら、ポンポンと肩を叩かれた。慰めか?
さらに交番から東へ約百メートル歩くと、アーケードの歩行者天国が南北に約一キロ続く『一番街(いちばんがい)商店街』に到着した。銀行のATMに退職金を全額預けてから、商店街をゆっくり歩いてみた。ここ二年程で、すっかり店舗の外観が白塗りの蔵や瓦葺の屋根、木材を使った町屋などに改装されている。市を挙げての『城下町プロジェクト』が発動し、地元ゆかりの武将『伊達◯宗』にあやかって小江戸を再現しているのだ。その経済効果は百倍以上だとニュースが伝えていた。先日始まったばかりの『千代(せんだい)光のペイジェント』は、数万個の電飾がけやき並木に飾られるロマンチックな冬の風物詩だ。観光客で賑わっているのを横目に『ルキア』へ出勤していたが、俺はそのイベントを楽しんだ記憶がない。
ふと、赤毛のヴァイキングと一緒に歩いている場面を思い浮かべてみた。俺は乙女か。恋人には見えないだろうな。あれか、外国人観光客と、案内役の通訳だな!
……ペイジェントは却下だ。
東北一の商店街に建設されたタワービルは数年前に商業エリアがオープンして以来、有名な待ち合わせスポットになっていると奈々から教えられたことがある。スーパーは、そこから南に百メートルのファッションビル地下にあった。
野菜や肉、スパイスに目当ての食材を手に入れて意気揚々と帰途に着き、早速調理に取り掛かる。寸胴鍋がないのでスパゲティ鍋を使い、冷凍豚ゲンコツや鶏ガラ、玉ねぎ、昆布等を投入してスープを作り始めた。キッチンの戸棚に新品のブレンダーを発見したので使わせてもらおう。今から数時間煮込めば、夕食に間に合いそうだ。俺はそんなに得意料理はない。バイト先の頑固じいちゃんにガミガミ言われながら教えてもらった十数品だけだ。肉系の料理ばかりだが、透は気に入ってくれるだろうか――。
ピンポーン。
教えられた壁の玄関モニターを覗いたら、鮮やかな赤毛の美丈夫が立っていた。
ガチャリ。
「おかえりなさい」
「ただいま」
一八時を少し過ぎて、窓の外は暗闇に包まれていた。
「休憩は一時間?」
「ああ。なんだかいい匂いがするな」
「夕飯だよ」
ダイニングテーブルには餃子と回鍋肉、五目チャーハンの湯気がのぼっていた。
「これは……青羽が作ったのか?」
翡翠の瞳が驚きで見開かれている。
「ラーメンもあるよ。食べる?」
「あ、ああ」
ピンポーン。
え、玄関のチャイムが鳴った?
「……チッ」
透が舌打ちをしながらモニターを確認し、玄関へと向かった。エレベーターは認証セキュリティに登録された人間しか乗れないはずだよね。ここまで来れる人間は誰だ。まさか恋人一号か?
ラーメンは何人前を茹でたらいいんだろう。俺はどうしたらいいんだ?
ガチャリ。
「やあ、日野君じゃないか」
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