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【八】青羽―初体験③ 

 逞しい身体を震わせ、スイッチを切り替えたヴァイキングが腰を激しく振り出した。バツンバツンと野蛮な音をたてて、肉環の中を捏ねくり回す。ああ、なんでいやらしい腰つきの男なんだ。俺を蹂躙し、屈服させ、快感で狂わせようとしている。 「とおるっ……」 「はぁっ、はぁっ、はあっ」  余裕が消えたのか、激しい息づかいだけが部屋に響く。ベッドのスプリングが共鳴し興奮を煽る。 「ああっ、とおるっ」  そう、そのままもっと揺さぶって。俺を天国まで連れて行って!  俺の両足を抱きしめていた男は拘束を解き、赤い髪を揺らしながら俺の唇に舌を差し込んできた。ベッドのスプリングが悲鳴を上げ、二匹の雄が跳ねる。激しさで唇が離れ、絶頂に向かって俺の扱く手もスピードを増した。 「あっ、あっ、あっ、あっ。もういくっ」 「ああ……、俺もいくぞ」  ドクドクドクドクッ。 互いの白濁がほとばしった。    シャワー後にスエット姿で真夜中のビールを飲んだ俺と透は、玄関を出るとエレベーターではなく廊下の奥へ進んでいった。十メートル先には鉄製のドアがふたつ、三メートルの間隔で並んでいた。  自宅の玄関同様、認証セキュリティのパネルとボタンが装備されている。 「左側がホテルの非常階段だ。ほら、例の馬鹿野郎がしこっていた場所に出る」 「了解」 「そして右は……」  透は先程まで浮かべていた幸福感あふれる表情を閉じ込めて、俺を覗き込んできた。 「青羽。面倒な話が聞きたくないなら部屋を用意するから、隣の町で暮らすといい。選択権はお前にある」 「そこは、あのダークスーツの連中と関係があるんだろ?」 「ああ……」 「中を見せてくれる?」  ガチャ。パチリ。  照明はフローリングのワンルームを照らし出した。広さは約十二畳。ダブルベッドにソファーセット、リビング棚にテレビ。奥にはミニキッチンと冷蔵庫が備え付けられている。左手のドアはユニットバスだった。 「これ、客室?」 「ああ。昨日来た『龍青会(りゅうせいかい)』幹部のシェルターだ。主に組長の使用を前提としている」 「『龍青会』組長……」 「県下一のヤクザだ。組長は『青龍神(ブルードラゴン)』と呼ばれている。茂山は組長の右腕で、次期幹部だ。俺の父親が投資詐欺に遭って当時ビジネスホテルだったこの場所と、もう一軒を手放す寸前になった。それを救ってくれたのが組長なんだ。彼との契約で避難場所を用意し、グループ企業になった。結局、向こうのビジネスホテルは組の不動産会社へ売却して、その資金でここをラブホに改築したんだ。ビジネスホテルは雇われ社長なんだよ」 「もしかして、ビジホにもシェルターがあるの?」 「いや。ここを使う事態が起これば、青羽にも世話を頼むと言われた」 「それは、俺が透の同居人だから?」 「恋人だ。恐らくボスは青羽自身の調査もしているし、妹の調査報告も受けているはずだ」 「……」 「気を悪くしたか?」 「ううん。安全地帯に危険な地雷を置いておくわけにはいかないんでしょ。県下一のヤクザだもんな」 「……青羽、これはお前に黙っておこうと思っていたが、フェアじゃないから伝えておく。奈々は妻帯者の愛人になって囲われている。本人も承知のはずだ」 「!」  あの強引な医者は、結婚していたのか! 「書斎にテツが持ってきた報告書がある。目を通すといい」 「なぜ黙っておこうとしたんだ?」 「愛人生活が破綻すれば、また都合よく青羽を頼って来るだろう。結婚詐欺師の娘は、ここに置いておけない」 「……その通りだね。でも大丈夫、一緒には暮らさない。奈々の母親の遺言は、やり遂げたと思ってる。奈々は自分であの男を選んだんだ。俺も、透との生活を選ぶよ」  義妹は結局、倫理観よりも裕福な暮らしを選んだ。あれほど母親の犯した罪を嘆いていたのに……。 「ありがとう。さあ、ここは冷える。ベッドへ戻ろう」 「うん」  再びベッドへ潜り込み、背後から恋人に抱き込まれたのは午前三時を過ぎていた。壁掛け時計がチクタクと刻み、耳元で寝息が吹きかけられる。冷えた足の裏をたくましい脛にピッタリとくっつけて人肌の温かさを堪能した。羽毛布団と透の二点セットは越冬の最強アイテムだ。ここはきっと、北国の楽園だ……。

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