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【二】青羽―フェアプレー②

「日野君、ありがとう。フロントの電話が止まなくて……。クリスマスのキャンセルがないか、今頃電話するなんて遅いのにね」 「ちょっと社長室に行ってきます」 「了解」  コンコン。ガチャリ。 「水上社長、いいですか」 「ああ、どうぞ」  ドアを閉めてデスクまで近づくと、透が社長から恋人へ表情を変えて立ち上がった。 「社長、質問して良いかな」 「なんだい、かしこまって」 「ホテルの部屋で大麻を使用した場合、それを知った経営者はどうしてるんだ?」 「……何か見てきたのか?」 「403号室の配膳ロッカーを開いたら、室内から匂いがしたんだ」 「黙っていた方が楽だろうに、なぜ話してくれたんだ?」 「透はフェアであろうとしたろ。だから俺もそうしただけだよ」 「……ちょっと部屋を出てくれるかな」 「わかった」  知ったことは伝えた。それだけで胸のつかえが取れた。喉に刺さった小骨のように見過ごせない出来事……。この先はオーナーである彼が判断するだろう。  キッチンを清掃し、定時の二十三時に勤務を上がった。ジャンパーを羽織り一旦敷地を出て、北側の小道から再び駐車場に戻る。車庫からペントハウスに帰宅して浴槽にお湯を張った。小一時間すれば透が帰宅するだろう。さらに追及されたら正直に答えようと決めた。    ところが、彼は意外な人物を伴って帰宅した。 「こんばんは。青羽君」  茂山副社長と護衛達、探偵のテツさん、くたびれたスーツの男が二名……。 「いらっしゃいませ」 「みなさん、書斎へどうぞ。青羽、コーヒーを入れてくれるかな」 「はい」    書斎の入口に立つ護衛達にお盆を差し出したら、手で断られてしまった。  コンコン。ガチャリ。  手前に中年男性と二十代後半の客と透が、コーヒーテーブルを挟んで茂山副社長と探偵屋がソファーに座っていた。コーヒーを配り終えると、探偵屋が俺を手招きした。透が頷いたので指示された場所に腰を下ろす。 「やあ、日野さん。私は○暑の星刑事だ。こっちは相棒の木村刑事」 「はじめまして」  ヤクザと刑事がつるんでるのか。マジかよ。 「君に質問したいことがあるんだよ。なぜ大麻の匂いがわかったんだ。過去に吸っていたのか?」  還暦に近そうな白髪の刑事が俺を尋問し始めた。そう、これは尋問なのだ。 「いいえ。吸っていたのは義理の母親とその友人です。それが大麻だと教えてくれたのは父です」 「父親は止めなかったのか?」 「怒鳴ってました。でも義母は止めても聞くような人間じゃなかった。奈々が可哀想だから、父は警察に黙っていると思ってました」 「義理の妹だが、彼女は知っていたのか?」 「奈々は自分の母親がろくでなしだと知っていました。九歳の子供が、土下座して母親を捨てないでと泣いて謝ったんです」 「だから:(いもうと)を捨てられなかったのか?」  透は同情的な口調だ。だが、それに甘えるわけにはいかないだろう。 「違うんだ。下田親子はカモフラージュだったんだよ」 「カモフラージュ?」  茂山副社長が鋭い口調で問うと、探偵屋が調査内容を明かした。俺がシェルターの番人として適格か、どこまで調べたのだろう。 「彼の父親は派遣業を転々としていました。五年前に肺炎で亡くなっています」 「俺の父親は、この街の情報屋でした。事実婚も愛情からじゃなかった」 「情報屋……」  透が愕然としてる。 「虎横飯店の店主は、父親の知り合いだったのか」  茂山副社長は合点がいった口調だ。 「そうです」 「虎横飯店?」  店の名前に刑事が反応した。やはり知っているようだ。探偵屋が透に捕捉してくれた。 「虎爺さんは、情報屋の伝言役だったんだよ。彼が組に取り次いでいた」 「!」  瞠目した赤毛の恋人が、俺の姿を捉える。やはり明かすしかないだろう。 「お察しの通り、父は虎じいさんに誘われて仕事を始めました。父の葬儀後、爺さんは俺に店を継がせるつもりで料理を教えてくれました」 「情報屋へ引き入れた罪悪感からか」 「……そうです」 「断ったのは年齢とは違う理由か」 「はい。奈々の母親とつるんでいた女が俺を利用するから街を離れた方がいい、と虎爺さんに言われました。ほとぼりが冷めたら、どこか違う場所で一緒に店をやるつもりでした……」 「爺さんはどこにいる?」 「田舎で暮らしてます。奈々が独立したら連絡するつもりでした」 「つるんでいた女は?」 「わかりません。【山田サキ】は奈々の母親が最後の宝石を渡すと、姿を消しました」  男達に貢がせたブランド品や宝石は、快楽の代償に消えてしまった。 「テツ、その女を調べてくれ」 「わかりました」  茂山副社長がスマホを操作し始めた。 「もしもし……五年前に消えた情報屋を教えて欲しいんだ。虎じいさんが使っていた奴だよ。……ありがとう、店長」  情報屋に詳しい人物が繁華街の飲み屋にいるのだろうか。 「仲間内でレッドと呼ばれていた奴か?」 「レッド……父ちゃんの名前、(あか)(いち)でコウイチなんだ。単純すぎる……」 「スパイ映画の見過ぎだな。まあいい。青羽君ありがとう。よかったな、水上社長。献身的な恋人のお陰で、君は嫌疑を真逃れたな」 「嫌疑……一体何の?」 「君はね、三つの組織から麻薬売買の嫌疑をかけられているんだよ。ここ『ルキア』内で薬を売りさばいている人間がいるんだ」 「!」  オーナーである恋人が、衝撃で固まっていた。

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